習近平氏 主導で開発が進む“理想都市”河北省・雄安新区を訪ねた

西日本新聞 国際面 坂本 信博

 北京近郊に中国の習近平国家主席の主導で開発が進む街がある。北京の南西約100キロに位置する河北省・雄安新区。習氏が掲げる国家目標「社会主義現代化を基本的に実現」の期限である2035年までに、農村地区を人口200万人規模の副都に変える計画だ。ハイテク立国や脱炭素など中国の未来予想図を体現する“理想都市”を訪ねると「社会主義現代化」の光と影がみえた。

 「雄安新区建設は習近平同志を核心とする党中央が決めた『国家千年の大計』」。北京から車で約2時間。街の入り口には巨大な看板があった。「核心」は中国政治の権威を象徴する表現。習氏以外では、歴代最高指導者のうち毛沢東、〓小平、江沢民の3氏にのみ使われている。

 先端技術を駆使したスマートシティーを官民一体でつくり、大気汚染や渋滞が深刻な北京の機能を分散させる-。〓氏が手掛けた深〓経済特区、江氏の上海浦東新区に匹敵する国家プロジェクト・雄安新区構想は17年に発表され、「習氏のレガシー(政治遺産)づくり」(外交筋)と目されてきた。

 あちこちでクレーンがせわしなく動き、つち音が鳴り響く。新区の総面積は有明海と同じ約1700平方キロで、インフラ整備予算は2兆元(約32兆円)。新型コロナウイルス禍のさなかも約10万人が工事を続けてきたという。

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 北京とは違い、空が広くて青い。一般公開中のモデル地区は、環境保全のためガソリン車の乗り入れを禁止。高層ビルが林立する北京や深〓、上海と異なり木々に囲まれた3~5階の低層ビルが並ぶ。郊外の大学に似た雰囲気だ。よく見ると、すべての木々にQRコードが付いている。生育管理のためという。監視カメラも至る所にあった。

 小さな白い車が近づいてきた。飲み物などを売る無人の移動販売車だった。顔認証で利用できる無人スーパーやホテル、映画館もある。第5世代(5G)移動通信システムや、政府が22年の実用化を目指す「デジタル人民元」も使える。まるで先端技術の見本市だ。

 見物客は多い日で3万人に上るという。会社経営の男性(42)は「習主席主導だから上海や深〓より発展する。ここに住みたいけど、家は買えない」と話した。不動産価格の暴騰で社会の格差が広がった教訓から、新区の土地売買は制限され、政府が賃貸住宅やオフィスを供給する。人口急増を防ぐ狙いもある。

 新区に参入する企業の多くは、アリババや百度(バイドゥ)など中国のIT大手や国営企業。外資優遇など経済主導で発展した深〓や上海とは異なり、政治主導の色合いが濃い。緑もあってきれいなのに、どこか居心地の悪さを感じた。

 世界経済と連携しながらも、国内経済の循環を柱に成長を図る習氏の新戦略「双循環」。新区がそれを体現し、〓氏や江氏を超えるレガシーとなるのか、それとも張りぼての見本市で終わるのか。

 東京スカイツリーの7倍超の鉄骨を使ったというアジア最大級の駅も現在建設中。北京と約1時間で結ぶ高速鉄道が来年6月に全面開通するそうだ。

 「3年前までは一面のトウモロコシ畑だったよ」。農業を営んでいた男性(53)は、0・1ヘクタールの畑を18万元(約290万円)で収用された。今は新区の見物客を乗せる電動車を運転し、1人5元(約80円)の運賃を稼ぐ。重機の群れを見つめてつぶやいた。「いいことは買い物が便利になったことくらい。前の暮らしの方がよかった」 (河北省雄安新区で坂本信博)

※〓は「登」に「おおざと」

※深〓は「土へん」に「川」

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