菅首相の人生相談を読む

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 菅義偉首相はなかなかの人生相談好きらしい。高校生の頃から50年にわたり某新聞の人生相談コーナーを愛読しているというから相当な年季が入っている。

 その経験を生かしてか、菅氏はビジネス誌「プレジデント」で「菅義偉の戦略的人生相談」と題する連載を5月15日号から開始。「官房長官が回答する人生相談」として話題を呼んだ。

 この人生相談は菅氏が首相就任で忙しくなったとして10月16日号で終了した。以前このコラムで書いたが、私もかなりの人生相談マニアであり、その読解には一家言あるつもりだ。菅氏の人生相談とはいかなるものか。掲載誌をかき集め、全11回を読み込んだ。

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 マニアの私にとって、各紙の人生相談で面白いと思う回答者は本紙の伊藤比呂美氏(詩人)、毎日新聞の高橋源一郎氏(作家)など。相談者に寄り添った上で時には励まし時には突き放し、「目からうろこ」の回答をしてくれるところに人生相談の醍醐味(だいごみ)がある。

 その観点で、菅氏の人生相談が面白いかと言えば…申し訳ないがいまひとつである。その理由は、政治家としての自慢話や自己アピールが多すぎ、肝心の相談者への回答がおざなりな印象を受けるからだ。

 例えば連載第9回。「彼女と金銭感覚が合いません。結婚も考えているのですが難しいでしょうか」という相談に対し、菅氏の回答は「結婚生活の資金を可視化していくことも、金銭感覚の『すり合わせ』をするうえで有益かも知れません」。そこまではいいのだが、ここから「例えば携帯電話料金」と強引に持っていき、菅氏の「携帯電話料金見直しへの取り組み」の話が延々と58行も続く。

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 相談にかこつけて菅氏が自分の政治家としての努力や実績をアピールするパターンは、他の回でもしばしば踏襲されている。

 想像してほしい。上司に相談を持ち掛けたら、その上司がとうとうと自慢話や武勇伝を語る。何ともまあトホホな状況である。

 興味深いのは第4回。「自分の仕事の成果をアピールするのが下手」と悩む相談者に対し、菅氏の回答の見出しは「アピール力などまったく不要」。…ご自分はしっかりアピールしていらっしゃいますよね?

 連載開始時期から推測すれば、菅氏は来年の総裁選をにらみ、親しみやすいキャラクターを国民に印象付けるために人生相談の企画を始めたのではないか。まさに「戦略的」人生相談である。総裁選が繰り上がり、連載の必要がなくなったのは誤算だっただろうが。

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 ところで、人生相談回答者の資質と首相の資質とは関係があるのだろうか。

 菅氏自身が連載第1回でこう説明している。

 「政治家の仕事は、国民の悩みを知り、耳を傾け、解決策を模索することが根本」

 「政治によって解決できる悩みや、政治がもう少し行き届けばやりやすくなるのに、といった声をいかに吸い上げられるかが政治家の力量です」

 この考え方には全面的に賛成する。願わくば実績アピールに転化する前に、もっと「耳を傾け」の方に重心を置いてほしいものだ。相談者に寄り添ってこそ、人生相談は価値がある。 (特別論説委員・永田健)

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