日本独自の芸術形式の達成 中条省平氏

西日本新聞 オピニオン面

◆マンガの半世紀

 『現代マンガ選集』という日本マンガのアンソロジー(全8巻、ちくま文庫)を刊行中です。

 戦後の文化史を通観してみたとき、日本のマンガが最も強烈な創造力をふるったのは、1960年代から70年代にかけてではないかと考えたことがきっかけです。この時代を起点にして、作者や出版社の枠組みを超えたテーマ別の構成で、戦後日本マンガの重要な主題とその独創性が明らかになるような選集を作りたいと考えたのです。

 幸い日本マンガに深い関心をもつ批評家や作家の方々に賛同をいただいて編集に入り、この画期的な選集へと編みあげることができたと自負しています。

 この60~70年代は、手塚治虫の敷いた少年マンガの路線を打ち破って、白土三平が『忍者武芸帳』を描き、貸本マンガや劇画が新しいマンガ表現を開拓し、「ガロ」や「COM」といったマンガマニアのための雑誌が次々に実験的な作品を発表し、「ビッグコミック」や「漫画アクション」などのマンガ誌が大人向けの娯楽作を掲載していった激動の時代です。そして、この時代の日本マンガの活力は、若者たちがあらゆる社会制度に異議申し立てを行った、世界的な<1968年>と言われる時代の潮流ともつながっていました。

 その時代の日本マンガのすごさを現代の読者に伝えたいというのが、今回の「現代マンガ選集」の出発点です。

 それと同時に、その時代のスピリットを継承した現在に至るまでのマンガも集めることで、日本マンガのこの半世紀ほどの歴史をまとめたいという気持ちもこめています。

 これまで6巻が刊行されました。マンガの技法的実験に焦点を当てる『表現の冒険』、ギャグマンガの変遷を捉える『破壊せよ、と笑いは言った』、家族や身辺雑記的なテーマを扱う『日常の淵』、SF的作品をまとめる『異形の未来』、格闘技やスポーツなどを題材とする『侠気(おとこぎ)と肉体の時代』、犯罪やエロスの領域に挑む『悪の愉(たの)しみ』です。

 総括してみると、日本のマンガの題材と画風が無限といっていいほどの広がりをもち、また、文学にも映画にもない鮮烈な成果を上げていることに圧倒されます。日本独自の芸術形式の達成として、読んだ方に大きな驚きをもたらすだろうと確信しております。

 中条省平(ちゅうじょう・しょうへい)学習院大文学部教授 1954年生まれ。パリ大文学博士。主な著書は「人間とは何か 偏愛的フランス文学作家論」「フランス映画史の誘惑」「マンガの論点」など。

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