世界津波の日 「迷わず高台へ」合言葉に

西日本新聞 オピニオン面

 和歌山県広川町には大津波から命を守るシンプルな教訓が伝わっている。ずばり「高台に逃げよ」である。

 幕末の1854年11月5日(旧暦)に起きた安政南海地震での史実に由来する。地震の後、海水が沖に引くのを見た庄屋が津波の襲来を感じ取り、稲の束を燃やして村人たちを高台に導いた-。

 11月5日はこの故事にちなむ「世界津波の日」だ。2015年に国連総会で採択された。

 現代に生きる私たちに、大津波の威力をまざまざと見せつけたのは東日本大震災である。田畑や家屋を容赦なくのみ込みながら内陸に迫る光景に、国内外の人々が言葉を失った。

 来年3月11日で発災から10年を迎える。津波が予想される地域では今改めて、自治体発行のハザードマップなどにより、自宅や職場周辺にある小山やビルへの避難路を確認したい。

 高台に逃げるか逃げないか。この判断の差が東日本大震災では明暗を大きく分けた。とりわけ学校現場である。岩手県釜石市の小中学生約2900人は「迷わず逃げろ」を合言葉にした日ごろの訓練が生き、全力で高台を目指して無事だった。

 一方、宮城県石巻市立大川小では裏山に逃げる判断はなされず、80人余の児童、教職員が犠牲になった。児童の遺族が市と県に賠償を求めた訴訟では、一審仙台地裁、二審仙台高裁は学校の判断ミスや危機管理マニュアルの不備を認めた。

 最高裁が市と県の上告を棄却して二審判決が確定したのは昨年10月である。これを受け、文部科学省が学校防災体制を強化するよう都道府県の教育委員会に通知した。

 学校現場に求められるのは「大川小判決の水準」とされる高いレベルの内容で(1)自然環境や社会的条件から危険を明確にして対応できているか(2)事前、発生時、事後を想定し迅速的確に対応できるか-などである。

 言うまでもなく、個々の教職員は災害や気象の専門家ではない。社会として決して学校任せにせず、気象台や警察、消防、自治会などの教訓や専門知識を集め、防災体制の整備を急ぎたい。学校だけでなく地域全体を守る計画も求められる。

 今備えるべき最大の危機は南海トラフ巨大地震だ。関東から九州にかけて太平洋側の広い地域に大津波をもたらすと予測される。津波の高さは九州では大分県佐伯市や宮崎県串間市で15メートル前後と想定されている。今後30年以内の地震発生確率は70~80%と極めて高い。

 津波被害が想定される各地で避難訓練や高台整備を加速させたい。残り時間は多くない。

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