【コロナ禍の視界】 出口治明さん

西日本新聞 オピニオン面

◆グローバル化は加速か

 コロナ後の世界、グローバリゼーションはどうなるのだろうか。それを考えるうえで大切なポイントは、時間軸を分けて考えること。即(すなわ)ちウィズコロナの時代とポストコロナの時代を峻別(しゅんべつ)することだ。ここでは、両者の分水嶺(れい)をワクチンや治療薬の開発・実用化と仮置きしておこう。

 ウィズコロナの時代は、基本はステイホームだ。人の移動を止めることが一番の防止策になる。しかし、ステイホームを続けていると経済が持たなくなる。そこで、感染が現在の日本のように下火になれば、ニューノーマルを基本に日常生活に戻っていく。

 そして、現在の欧州のように感染がぶり返せば、またステイホームに戻る。要するに、ウィズコロナの時代は、締めたり緩めたり、つまりステイホームとニューノーマルの間を行ったり来たりするほかはないのだ。

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 これに対してポストコロナの時代は、インフルエンザとほぼ同レベルの感染症になることから、原則としてステイホームもニューノーマルも必要がなくなる。ではコロナ以前の元の社会に戻るのかといえば、そうではないだろう。

 ウィズコロナの時代に、オンラインを活用したテレワークやZoom授業などが広く社会に行き渡った。テレワークやZoom授業はとても便利なので、人々がこの便利さを簡単に手放すと考えられない。ポストコロナの世界は、以前よりテレワークなどが日常に組み込まれたハイブリッド型の社会になるだろう。

 ウィズコロナの時代は人の移動は制限され、グローバリゼーションは一時的に止まらざるをえない。問題は、ポストコロナの時代にグローバリゼーションがどうなるかだ。

 歴史を振り返ってみよう。記録が相当量残っている近世以降では、14世紀のペストが最初のパンデミックであろう。欧州では3人に1人が亡くなったといわれている。ペストに直面した人々が最初に取った行動は、やはりステイホームであった。ボッカッチョのデカメロンは、その偉大な記念碑である。

 ペストは神を冒涜(ぼうとく)したから生じたと考えた人々は、より敬虔(けいけん)になり教会に詰めて祈った。「メメントモリ(死を想(おも)え)」という言葉が残っているが、祈ってもペストは収まらなかった。そこで人々は、「カルペディエム(その日の花を摘め)」という言葉に代表されるように、より現世的になり、神から自由になって自力救済を図ろうとした。

 この流れがイタリアでルネサンスを生み、欧州中に広がっていった。ペストは結果としてルネサンスを生み、グローバリゼーションを加速したのである。

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 このように歴史を鑑(かがみ)とすれば、コロナ禍が終結すれば、その後の世界はきっとグローバリゼーションを加速するだろう。

 トランプ米大統領のように自国ファーストを掲げる政治家が増えている。世界は分断に向かうのではないかという人がいないわけではない。しかし、現代の豊かな生活は産業革命の3要素といわれる、化石燃料、鉄鉱石、ゴムという三つの貴重な資源の上に成り立っている。現代文明の象徴である自動車や飛行機を見れば一目でわかるだろう。これらの資源を一つでも持っていれば、バーター取引が可能であるので自国ファーストを掲げることもできる。

 しかし、これらの3資源は地球上に偏在しており、米国のような国はほとんどない。日本もドイツもフランスも3資源を持っていないので、グローバリゼーションを発展させ、世界の国々と仲良くやっていく他はないのだ。グローバリゼーションは止まらないと考える所以(ゆえん)である。

 【略歴】1948年、三重県生まれ。72年、京大法卒、日本生命入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長など歴任。2008年、ライフネット生命を開業。12年上場。社長、会長を歴任。18年から現職。著書に「哲学と宗教全史」など。

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