人間と鬼の違いとは【坊さんのナムい話・21】

西日本新聞 くらし面

 「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」という漫画をご存じでしょうか。何かと話題で公開された映画も大ヒット。社会現象になっています。鬼に家族を殺された少年が、鬼になってしまった妹を人間に戻すため鬼を倒していくという少年漫画。子どもたちにも大人気ですが、結構ポンポン首が飛ぶので大丈夫かなと思います。まぁ、考えてみればアンパンマンも首が飛ぶという点では同じですね。

 世間の流行に弱い私もまた例に漏れずはまり込んだわけですが、その理由はただ単に面白いというだけではありません。この漫画には宗教的な要素が多くみられるのです。

 例えば、敵である鬼は人間を喰(く)うので、作中では多くの人間がその犠牲になります。その犠牲が主人公たちの闘争心に火をつけるわけですが、ほかの漫画と違うのは主人公がこれらの犠牲者を埋葬し弔う描写が出てくるところです。ストーリーの合間にお墓の前で手を合わせるシーンがよくあります。次の任務に向かう前に一度立ち止まって過去の人たちの思いと自分の行動を確認します。なかなか少年漫画にはない描写に人間味を感じるのです。

 日頃私たちは立ち止まるということをしているでしょうか。毎日何かの目標に向かって歩き続けています。歩みを止めないことを良しとしています。そしてその目標の多くが経済活動、つまりいかに効率よく財産を手に入れモノを消費していくかです。立ち止まることなく、ただ消費を求めるだけの姿。その姿が鬼滅の刃に出てくる鬼と重なります。作中の鬼は人を喰うためだけに生き、立ち止まりません。立ち止まるということは、自分の行いについて考えることです。これでよかったのか、このまま進んでいいのか。しかし鬼は自分を振り返るなんてことはしません。

 宗教の儀礼や儀式には立ち止まるという機能があります。人生において環境が大きく変化する時、儀式を行い自らを振り返ってきました。今、多くの儀礼が簡略化されています。時代によって価値観が変わることは必然かもしれません。無駄な儀礼も多すぎます。しかし生身の人間として立ち止まることは忘れてほしくはないのです。時には足を止めてみてはいかがでしょうか。そこが人間と鬼との大きな違いです。

 (永明寺住職・松崎智海 北九州市)

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