西日本文化賞 災禍の年に光広げる業績

西日本新聞 オピニオン面

 人類は度重なる疫病や天災に見舞われながらも、そのたびに立ち上がり、高度な文化と文明を築いてきた。連綿と続く不撓(ふとう)不屈の営みの尊さを、ひときわ重く感じる今年の「文化の日」である今日、第79回西日本文化賞の贈呈式が行われる。

 地域の文化向上や発展に貢献した個人・団体に贈られるこの賞は西日本新聞社の前身、福岡日日新聞社が1940年に創設した。既に400に迫る科学者や文学者、芸術家や学術団体などが受賞者に名を連ねる。

 今年は4人の名が加わった。いずれも、たゆまぬ努力で優れた仕事を積み上げてきた。その業績を心からたたえたい。

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆う中、学術文化部門には、くしくも「災い」を防ぐことにもつながる研究に携わる研究者2人が選ばれた。

 九州大応用力学研究所教授の磯辺篤彦さんの専門は海洋物理学だ。海洋を漂う微細なマイクロプラスチックごみを研究してきた。2016年には南極海にもマイクロプラごみが存在することを世界で初めて発表し、人類が直面する環境問題であることを知らしめた。人災とも言える海洋プラごみ問題の解決に向け、国境を越えた大学の連携・協力にも尽力している。

 この部門の若手・中堅を対象とした奨励賞は、同じ九州大の工学研究院教授の辻健さんに贈られる。長年、地球の内部構造を探る研究を重ねてきた。南海トラフの断層を研究し、熊本地震では温泉街の温泉水が止まったメカニズムを突き止めた。その研究成果は今後の防災などに大きく寄与するだろう。

 社会文化部門は福岡アジア美術館初代館長の安永幸一さんに贈られる。福岡市美術館の建設準備から福岡アジア美術館を退任するまで約40年、福岡市の美術館行政を支えてきた。大陸への玄関口・福岡でアジア各国の美術を紹介してきた功績は特筆に値する。ライフワークとして福岡県久留米市出身の画家吉田博の研究に取り組んできた。

 奨励賞は漫画家の高浜寛(かん)さんが選ばれた。熊本県天草市出身で、筑波大在学中にデビューした。フランスの漫画を思わせる柔らかで繊細な描写は、早くから海外でも高い評価を受けてきた。明治初期の長崎の骨董(こっとう)品店などを舞台に描いた「ニュクスの角灯(ランタン)」は今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞に輝いた。今、国内外で最も注目される漫画家の一人である。

 好奇心と探究心を失わず、努力を重ねれば道は開ける-。コロナ禍で閉塞(へいそく)感が広がる中、4人の受賞はさまざまな文化活動に励む若者にそんなメッセージを伝えてくれるに違いない。

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