川辺川ダム 賛否で割り切れぬ流域の民意 豪雨経験地域・立場で濃淡

西日本新聞 社会面 古川 努 中村 太郎 村田 直隆

 7月の記録的豪雨からの復旧、復興と球磨川流域の治水策に民意を反映しようと、熊本県の蒲島郁夫知事が10月15日に始めた意見聴取会には、今月3日までに87団体・企業の代表98人と流域など13市町村の住民324人が参加した。焦点は最大の支流・川辺川へのダム建設の是非。「清流を守って」「安全な古里に」-。そんな言葉だけには集約できないさまざまな思いが聞かれた。地域や立場によって異なり、濃淡もある。

 10月24日午後、人吉市の会場。隣に座る知人から背中をポンポンとたたかれ、女性(34)は意を決したように蒲島氏を見据え、口を開いた。「知事さん、ダムを造らないで。ダムを造ったら川は死にます」

 女性が願うのは、幼い頃から親しみ、今はわが子の遊び場となった川辺川の環境の保全。同じように川への愛着を訴え、ダムに拒否反応を示す住民は少なくない。2008年、蒲島氏のダム建設「白紙撤回」を後押ししたのは、こうした住民の思いだった。

 だが、12年前とは状況が違う。気候変動で豪雨は頻繁に発生する。熊本豪雨による球磨川の氾濫では50人が犠牲になり、人吉市での浸水は518ヘクタールに及んだ。同じ日、別の会場では被災者の男性が「人吉は『遊水地』になった。ダムしかない」と訴えた。

 ただ、流域の民意は「推進」「拒否」という言葉だけでは割り切れない。ダムには反対でも「(通常は貯水せず、環境への負荷が少ないとされる)穴あき型ダムならば」と容認する意見もある一方、ダムからの緊急放流による水位の急上昇を恐れる人もいた。

 関係団体の考え方もそれぞれ異なる。農業団体はダムを求めるが、ダムの補完策として浮上する遊水地には否定的だ。人吉球磨地域土地改良区連絡協議会は農地が遊水地の犠牲になることを警戒し、「田んぼは農家の財産。農家の同意は得られない」とくぎを刺す。

 一方、球磨川や川辺川は、アユ釣りや川下りで全国からファンを集める「観光の核」でもある。相良村の漁業者は「川漁師の生計が成り立たなくなる」。八代市坂本町のラフティング業者は「良い川には人が集まり、にぎわいが生まれる。川が死んでは、その可能性はなくなる」と不安がる。

 ダムの是非を巡って地域が二分された歴史も影を落とす。「(建設促進を決議した)市町村長さんが結論を出している」(10月24日、人吉市)、「治水に効果があるものは全て実施を」(今月2日、五木村)-。意見表明であえて「ダム」を避ける人も少なくない。

 蒲島氏は年内の早い段階に「治水の方向性」を示す方針。治水策が定まれば、道路や河川、鉄道の復旧、宅地や市街地の再生といった復興への具体的な道筋を描けるようになる。

 ただ、さまざまな意見を踏まえて蒲島氏がダム建設の方向性を示したとしても、建設には河川法上の漁業権の補償が必要。過去には国が球磨川漁協に提示した補償案が否決されており、ハードルは高いとみる関係者もいる。同漁協の堀川泰注(やすつぐ)組合長は「(当事者として)発言を慎重にしないといけない立場」と断った上で、「治水対策にどうのこうのとは触れない。組合員と協議して一番良い選択をしていきたい」と述べるにとどめた。 (古川努、中村太郎、村田直隆)

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