仕事を転々、空っぽの通帳…コスプレが救った人生

西日本新聞 社会面 御厨 尚陽

NICHE-MEN(ニッチメン)-オレの仕事、アウトですか?<3>

 水色の髪、ブルーのミニスカ、ニーハイのブーツ姿でポーズを決める。一見女性のようだが、福岡市のコスプレーヤー信司(46)=仮名=が女装した姿だ。「アニメキャラクターを依(よ)り代(しろ)にして、自分から切り離される。変身願望のようなもの」と醍醐味(だいごみ)を語る。

 九州の「オタクの聖地」、福岡市・北天神でコスプレショップを経営する。店内にはアニメやゲームのキャラになりきれる衣装の中古品が約600点に、ウィッグ(かつら)も並ぶ。客の多くは10~20代の女性。数回着て撮影し、すぐに売りにくる。買い取った衣装はまた別の客へ。年間売り上げは2千万円に上る。

 この商売を支えているのは、若者たちの承認欲求だ。撮った写真は画像加工アプリで目を大きくしたり、くびれをつけたりして、会員制交流サイト(SNS)に投稿する。「着るだけで満足する人は少ない。やっぱりみんなから『いいね』をもらって褒められたい」

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 勘違いが始まりだった。東京の大学に通っていた1996年、雑誌で目にした女性キャラのコスプレ姿に「男でも女性のコスプレをしていいんだ」と感激した。実は男ではなく女の人が着ていたのだが、思い込みが変身願望を目覚めさせた。コスプレ衣装の専門店もない時代。家庭科の授業でエプロンを作る程度のつたない手先だったが、凝った衣装は作りがいがあった。初のキャラはゲーム「ザ・キング・オブ・ファイターズ」の不知火舞。イベントで披露すると、同じキャラ姿の女性に次々声を掛けられた。「長年友達がいなくてコンプレックスだったのに、すぐに仲間が増えた」

 ただ、信司のような女装はイベント主催者に歓迎されなかった。女装禁止のイベントが増え、仲間と野外でコスプレを楽しむようになった。

 熱を上げすぎて、勤めるIT会社には昼から出社。関連会社に出向し、生活も荒れた。「コスプレは現実逃避でもある。東京から逃げたかった」。2000年、福岡に帰郷し、バイトや派遣の仕事を転々とした。結婚はしたものの、空っぽの通帳を見せた数日後、妻は去っていった。

 そんな信司を趣味が救った。09年、コスプレ写真を載せたホームページに衣装制作の依頼が届き始めた。12年、ついに店を構えた。

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 趣味が仕事となり、満願成就かと思いきや予期せぬ事が。14年ごろ、税関に呼び出された。衣装スタッフが、中国から輸入する際の関税を過少申告していた。経営者として1300万円の支払いを迫られた。

 だが、信司にとってコスプレはもはや趣味ではなく、人生そのもの。人生を終わらせるわけにはいかない。自らイベントを打って客を増やし、ついに今年5月に完済した。

 新型コロナウイルスの影響で経営は厳しいが、「コスプレしたみんなと会いたい」という常連客の声が支えてくれる。キャラクターへの変身を通じて非日常を味わい、なりきる喜びを感じる人たち。高校まで友達ができなかった信司のように、家庭がうまくいっていなかったり、学校でいじめられていたり、そんな悩みを抱えた人に出会うこともある。今や店の収益以上に、コスプレを楽しむ客をプロデュースすることが生きがいだ。「コスプレをブームでなく、身近なライフにしたい」

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