「無機質な日々だった」まとめサイトの元エンジニア、ベッドの上で見つめ直した半生

西日本新聞 社会面 御厨 尚陽

NICHE-MEN(ニッチメン)-オレの仕事、アウトですか?<5>

 ビルの一室。私服姿の男性数人がパソコン(PC)に向かい、インターネットの大型掲示板に投稿された文言をコピペしていた。福岡県内にあるこの会社は、ネット上の膨大な情報を寄せ集めて編集した「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)まとめサイト」を運営している。システムエンジニアの祐二(55)=仮名=はここで技術面のサポート役を務めてきた。

 「コロナのストレスで限界」「あおり運転終了 改正道交法成立」「人生初の彼女と結婚した結果」。まとめサイトにはそんな見出しが並ぶ。各種掲示板では時事問題から雑談まで幅広い情報がやりとりされている。短時間で効率的に知りたいことを入手してもらうには、何を抜き出し、まとめ、読みつかせるか。センスや情報収集能力が編集者の腕の見せどころだ。

 祐二が開発したのは、注目するサイトに絞って情報を一斉検索するソフトや、まとめサイトの紹介文をツイッターに自動投稿するプログラムなど。記事のアクセス数を増やし、広告収入を上げるためのシステムだ。この会社は月に最大3千万円を稼いだ実績があり、祐二はコンサルタント料として月50万円を受け取ってきた。大手電機メーカーの関連会社でシステム開発に携わった経歴はだてじゃない。「できないことはない」と豪語する。

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 ある事件をきっかけに、祐二の人生は一変した。1995年12月、社内の全パソコン約100台に「メリークリスマス」というメッセージと雪だるまのイラストが一斉表示されるプログラムを仲間と仕込んだ。「バブル期の熱気にあてられたままだった。面白いだろうと軽い気持ちでやった」。クリスマスイブの夕方、サプライズに同僚たちは沸き、喜んだ。だが翌日、本社サイドではウイルスが侵入したと誤解され大騒ぎに。犯人捜しが始まった。名乗り出ると、系列の専門学校に左遷された。

 同期が出世する傍ら、自分だけが取り残されていく。「自分の力を試したい」という思いが頭をもたげた。2001年に退社を決意し、妻と子ども2人を連れて古里の福岡に戻った。

 「準備せずに飛び込む性格」ゆえか、友人と起こしたIT会社は倒産し借金を背負い、一時は「死ねば楽になるかも」とうつ状態にもなった。安定して稼げず悩んでいた10年ほど前に出会ったのが、まとめサイトの社長だった。

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 この数年で風向きは悪くなった。「まとめサイトはNGリストに入っている」と、あるネット広告会社の幹部は明かす。検索しても上位に表示されにくく、匿名で誰かを批判して盛り上がることも多い場に、企業が広告を出すメリットは小さい。祐二が関わる会社も広告収入が激減し、ユーチューブの動画配信に力を注ぎ始めた。祐二も報酬をもらえなくなり、最近はたまに編集現場に顔を出す程度の付き合いだ。

 昨年5月、糖尿病で2週間入院し、ベッドの上で半生を見つめ直した。「パソコンと向き合うばかりで、人との関わり合いがない無機質な日々だった。人の役に立つ仕事がしたい」。いつか必要になるかもと、企業勤めだった23年前、ホームヘルパーの資格を取っていた。今はシステム開発の依頼をこなしながら、週末は介護施設に通う。介護の収入は月6万円程度だ。

 「この年で怒られてばかりだし、難しいけど、楽しいんだよ」。自分に言い聞かせるように語る55歳の顔に、満面の笑みがこぼれた。 =おわり

 (この連載は本文を御厨尚陽、イメージイラストを大串誠寿が担当しました)

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