七五三撮り続け60年 80歳の写真館主が刻む「人生の記録」

西日本新聞 ふくおか都市圏版 手嶋 秀剛

 七五三の参拝客でにぎわう福岡市博多区の櫛田神社に、今年も同区奈良屋町の写真館主、渡辺興輝さん(80)のシャッター音が響く。ハレの日の家族写真を撮り続けて60年。デジタルカメラの普及などで撮影依頼は少なくなっているが、一生ものの1枚を届けるため、「あと5年は頑張りたい」と意気込む。

 「こっちを向いて。撮りますよ」。秋晴れが広がった10月末。晴れ着姿の女の子を囲んだ家族が、カメラのレンズに笑顔を向けた。「はぁい、もう1枚」。シャッターを押す渡辺さんの表情もにこやかだ。

 構える重厚なカメラには、今では珍しいフィルムが入っている。「デジカメの写真では人のぬくもりが伝わらん。仕上がりば比べたら、肌の色やらで違いが分かりますけん」。老舗写真館主の誇りがにじむ。

 1960年に東京写真短大(現東京工芸大)を卒業後、父の写真館で働き始めた。その年から同区の住吉神社で七五三の撮影を始め、数年後に櫛田神社でも撮るようになった。昭和の高度成長の途上、カメラを所有する家庭は少なかった。高価だったカラーフィルムの写真は「家族にとって、貴重なわが子の人生の記録やった」と振り返る。

 記念写真のピークは昭和40~50年代。当時は櫛田神社に常駐しており、毎秋、平均50組の七五三を撮影。最盛期には1日だけで約80組を撮ったこともあった。

 近年はデジカメやスマートフォンが普及し、多彩な衣装をそろえた子ども向け写真スタジオに行く家族も増加。渡辺さんへの撮影依頼は「11月中に10組あるかないか」。ただ、親子2代で渡辺さんに撮影を依頼した家族も20組ほどあり、今も声が掛かれば、写真館から神社に出向いている。

 福岡市城南区の会社員山野秀明さん(38)は今秋、長女未織さん(7)の七五三で、家族と一緒に渡辺さんのカメラに納まった。「写真スタジオでは味わえない温かい雰囲気。長女が大きくなった時のいい記念です」。山野さんは仕上がりを心待ちにしている。

 福岡市内であれば、出来上がった写真は渡辺さん自ら、スクーターで届ける。その時に再び出会う家族の笑顔が、元気の源でもある。健康維持のため、週3回のジム通いで筋トレも欠かさない。「依頼は少ないぐらいでちょうどよか。(神社での出張撮影は)認知症の予防と思うとります」。愛用のカメラに手を添えた。 (手嶋秀剛)

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