「トランプではないから」接戦呼んだ消去法 問われるバイデン氏の手腕

西日本新聞 総合面 田中 伸幸

【再生 バイデンの米国】(1)

 大激戦の末、勝敗が判明するまで5日も要した異例の米大統領選。国内外に混乱をもたらし続けた共和党のトランプ大統領に、国民は「ノー」を突き付けた。史上最多の7500万票を得て、次期大統領に選ばれた民主党のバイデン前副大統領は「全国民の大統領になる」と誓う。しかしトランプ氏は依然敗北を認めようとせず、熱烈な支持者が各地で不穏な動きを見せる。分断により深く傷ついた超大国は立ち直れるのか-。バイデン氏の手腕が問われている。

 「(共和党を支持する)赤い州も(民主党を支持する)青い州もなく、アメリカ合衆国なのだ。全ての国民の信頼を得られるよう全力を尽くす」

 当確が判明した7日夜、バイデン氏は地元の東部デラウェア州で集会を開き、勝利宣言した。ときに演台をたたき、団結を訴えるその口調はいつになく熱がこもっていた。何度も「融和」を呼び掛けた演説に、感動のあまり涙ぐむ支持者の姿も。当選を祝おうと、ホワイトハウス周辺に駆け付けた市民たちも「米国の再生への始まりだ」と大きな期待を寄せる。

 トランプ政権下で、米国社会はさらに深く分断された。移民規制の「不寛容政策」など排他的な公約を次々に実行してきたトランプ氏を支持者は熱烈に歓迎したが、反対派は憎悪を深めた。選挙戦でも郵便投票を巡り、民主、共和両党の支持者が互いにののしり合うなど現在の米国を象徴する光景が繰り広げられた。

 その状況は結果が判明した今も変わっていない。

 「選挙はまだ終わっていない」。トランプ氏はバイデン氏当選確実の報道を受けても、歴代大統領選で敗者が勝者に祝意を示してきた「敗北宣言」を拒否。開票作業に不正があったと一方的に主張し、敗北した激戦州で訴訟を乱発する。

 呼応した多くの支持者も「選挙は不正だ」と怒りの声を上げ、銃で武装した支持者とみられる男らが開票所の襲撃を計画したとして拘束される事態も起きた。

   ■    ■

 バイデン氏を大統領へと押し上げた最大の原動力は、何よりトランプ氏の存在だった。再選されれば、社会の多様性や民主主義の価値観、世界のリーダーとしての地位が大きく損なわれるという危機感が、うねりとなってバイデン氏優勢の流れをつくった。

 さらに新型コロナウイルス禍への対応の不備や、警察官による黒人暴行死事件に端を発した人種差別問題の高まりで「バイデン氏圧勝」の予想すら流れた。

 だが、結果は両候補とも史上最多の7千万以上の票を得る、かつてない大接戦だった。バイデン氏支持の多くが「トランプではないから」(南部州の男性)と消極的な理由だったことが接戦の一因といえる。

 新型コロナ禍の国内の死者は世界最多の23万人を超え、感染拡大防止が急務となる。7日夜の演説で、バイデン氏は「コロナ対策から仕事を始める」と語った上で、経済の立て直しもアピール。減税政策で経済を成長させたトランプ氏とは対照的に、富裕層への増税路線を掲げるが、実行力には不透明感が漂う。

 トランプ氏や、かつて副大統領として仕えたオバマ前大統領のようなカリスマ性もない。大統領就任時の年齢は過去最高の78歳。自ら「次世代への橋渡し」と語るように、1期だけの短命政権に終わるとの見方は少なくない。

 国民からの熱狂的な支持を欠く中、未曽有の危機に陥る米国を再生できるのか。半世紀近い政治家人生の集大成を迎えるバイデン氏が背負う責任は重い。 (ワシントン田中伸幸)

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