バイデン氏「勝利」 米国に健全な民主主義を

西日本新聞 オピニオン面

 民主主義を守り抜くという民意の表れだろうか。米大統領選は大接戦の末、民主党のバイデン前副大統領が選挙人の過半数を獲得し、共和党現職のトランプ氏の再選を阻止する情勢となった。

 「米国は赤い州も青い州もなく、合衆国だ。私は全国民の大統領として統治する」

 バイデン氏は勝利宣言の演説で、両党のシンボルカラーを挙げて有権者にそう約束した。

 激しい分断にさらされている国民の融和を図り、国際協調に回帰する方針を歓迎したい。

 「トランプ対反トランプ」という構図の選挙戦で一段と深まった亀裂を修復し、国民を和解へと導くのは至難の業だろう。

 バイデン氏は人々の苦難に心を寄せる「共感力」が持ち味という。融和の道を探り、社会の安定を取り戻してほしい。

■混乱と分断に歯止め

 米国社会の分断は1860年代の南北戦争以来と形容されるほどの深刻さに至っている。

 支持候補が異なると意思疎通もままならず、暴力で相手をねじ伏せることもためらわない。今、そんな不穏な空気が漂う。

 これをつくり出したのがトランプ氏である。政治経験ゼロで大統領に就き、実利優先で型破りな政治手法を取り波紋を広げてきた。意見の異なる相手には敵意をむき出しにし、憎悪をあおって支持者を引きつけた。

 しかし、この不寛容さは社会の分断を深め、差別を助長し、民主主義を危機に追いやった。「パンドラの箱」を開けるとはまさにこういうことだろう。

 バイデン氏は副大統領候補に移民2世で黒人女性のハリス上院議員を起用し、多様性を重視する姿勢を示した。勝因には、トランプ氏が巻き起こす混乱や分断に歯止めをかけ、健全な民主社会を取り戻したいという有権者の願いがあると言える。

 トランプ氏は民意を尊重して敗北を認め、穏当に政権を明け渡すべきだ。郵便投票の正当性を巡る法廷闘争でいたずらに決着を長引かせてはならない。

■世界の安定に貢献も

 トランプ氏は独善的で暴言や失言も多い。それでも底堅い支持を得た背景を考えてみたい。

 まず公約実現にこだわった。国境の壁や減税、規制緩和を断行し、コロナ禍前まで経済も好調だった。支持者には実行力のある指導者と映ったのではないか。立派な理念より現実の暮らしがよくなる政治を望む有権者が相当数に上るとみるべきだ。

 移民が増える社会で雇用不安を抱える白人労働者層にとってトランプ氏の排他的な言動が心をつかんだ面も否めない。

 バイデン氏にとって、そうした現実を直視することが分断克服の第一歩となるだろう。公約の実現には急進左派に勢いのある民主党をまとめ上げる力量も問われる。

 トランプ氏が破壊した国際秩序の立て直しも急務だ。バイデン氏は米国が離脱した地球温暖化対策の「パリ協定」について復帰を明言している。国際機関や多国間枠組みに後ろ向きな現政権の姿勢から大胆に転換してほしい。地球規模の課題には米国の力が欠かせない。

 国際社会を考える上で鍵を握るのは米中関係である。米国ではトランプ政権が中国を激しく攻撃し、対中感情が悪化したままだ。バイデン氏はそうした世論を意識し「国際的なルールを守らせる」と述べ、厳しい態度で臨む方針を表明している。

 東アジアの緊張をこれ以上高めてはならない。中国の強権統治に自制を促すには民主主義国間の連携が必要だ。バイデン氏は同盟関係の強化を公約に掲げているが、日本との関係をどう描くのか知りたい。

 内向きになったとはいえ、米国は民主主義国と市場経済を先導できる存在であることに変わりはない。その矜持(きょうじ)を持ち、世界の安定に貢献してほしい。

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