八ツ場ダム晴れぬ心 「下流域守る」住民決断も 治水効果の評価二分

西日本新聞 社会面 鶴 加寿子

 熊本県で是非論が再燃している川辺川ダム計画とともにかつて「無駄な公共事業」の象徴とされた八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)。「東の八ツ場、西の川辺川」と呼ばれ、いずれも2009年の民主党政権時に中止が決定。八ツ場ダムは事業再開の方針に転換され、今年4月に運用を開始したが、その治水効果はいまひとつはっきりしない。苦渋の決断でダムを受け入れた住民の思いは複雑だ。

 今月3日、利根川支流の吾妻(あがつま)川の中流にある八ツ場ダムは紅葉に彩られ、家族連れらでにぎわっていた。ダム湖面を観光用の水陸両用バスが遊覧し、湖畔にはキャンプ場やカフェを備えた施設。道の駅では、堤体を模したご当地グルメ「ダム焼き」も売られていた。

 ダムのそばには1日に資料館が開館したばかり。利根川流域に大きな被害が出た台風をきっかけに、国が調査を始めた1952年から完成までの道のりを示すパネルを展示。昨秋の台風襲来で、試験湛水(たんすい)中だったダムが洪水を防ぐ役割を担ったことを示す下流河川の水位変化の写真も並ぶ。

 埼玉県から訪れた女性(78)は模型を眺める孫にこう話しかけた。「このダムが下流の私たちを守ってくれるんだよ。『ありがとう』って言わないとね」

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 2009年9月、自民党から政権を奪取した民主党は「脱ダム」を打ち出し、川辺川ダムと八ツ場ダムの事業中止を表明。八ツ場ダムについては事業費を負担する関東の6都県が反発し、ほどなく方針は撤回され、建設が再開された。

 久々に注目を浴びたのは昨年10月の台風19号。国土交通省関東地方整備局によると、八ツ場ダムを含む七つのダムで利根川の水位上昇を約1メートル抑え、氾濫危険水位(4・8メートル)を超えさせなかった。

 「八ツ場ダムがあったから氾濫を免れた」と、自民党議員はダムをたたえる。だが一方で、4カ所の遊水池が八ツ場ダムの3倍以上の水をためたとの国交省のデータなどから「ダムがなくても氾濫を免れた」と唱える専門家もいる。

 ダム湖を見下ろす高台でレストランを営む水出耕一さん(66)は、ほぼ空だったダムが台風で一気に満水となるのを見た。運用開始後は常に水がたまっているため「次の台風ではあふれるのではないか」との不安が拭えないという。

 水出さんが長く営んだ食堂の土地は、ダム湖に沈んだ。高台に移ったのは「上・中流域の住民は下流域を守る役割がある」と腹を決めたから。「造ったからには国はしっかり運用してほしい」と語気を強める。

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 ダム湖に水没した旧川原湯地区は、最盛期に20軒弱の宿が並ぶ温泉街だった。このうち高台に移ったのは6軒。造成地整備に時間がかかり、土地を離れる人が相次いだ。

 真新しい建物が立つ風景は、まるで売り出し中の新興住宅地だ。川原湯温泉協会の樋田省三会長(56)は「ダムを観光資源として人を呼び込み、まちを新たに生まれ変わらせたい」と力を込める。

 ダム問題で揺れた頃は、川辺川ダムの水没予定地の住民と意見を交わす機会もあった。川辺川流域の住民を思うと、先の見通せない不安を思い出す。「熊本の人たちがダムと生きる道を選んでも、ダム無しを貫いても応援したい。ダムは万能じゃない。本当に必要なのか、よく考えてほしい」 (鶴加寿子)

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