ハリス氏の勝利宣言 神屋由紀子

西日本新聞 オピニオン面 神屋 由紀子

 すがすがしい日曜の朝だった。米国と結ぶ中継映像で、バイデン次期政権の副大統領に就く民主党のハリス上院議員の勝利演説を聞きながらそんな気持ちになった。

 米国の女性参政権が憲法で認められて100年。その節目の年に黒人、女性、アジア系、それぞれで初の副大統領誕生が確実になった。ハリス氏は国民にこう語り掛けた。

 「副大統領になる女性は私が初めてかもしれないが、最後にはならない。なぜなら今夜、これを見ている全ての少女がこの国は可能性に満ちていると思うはずだから」

 この言葉を聞き、ふと高校時代の部活動を思い出した。

 体育会系さながらの吹奏楽部には当時「金管楽器に女子は入れない」という不文律があった。中学校でホルンを吹いていた同じ学年の女子生徒はやむなくクラリネット担当になり、次の学年も同じようなことが起こった。

 私の学年は男子7人に女子14人とバランスが悪い。不文律をなくすよう先輩たちに求めても返事は「それが伝統だから」。肺活量の男女差が理由だったのかもしれない。

 市内には全国トップ級の女子校があり、見事な演奏を聴かせていた。どう考えても理不尽だ。2年生の夏、先輩たちが引退した後、男女一緒に部員で話し合い、女子も金管楽器を吹けるように決めた。

 何十年も前の小さな世界の話ながら、社会の縮図であり時間はかかるけれど状況は変えられると時折、振り返る。

 ハリス氏の演説に歓声が上がり、目に涙を浮かべる女性もいた。人種や性別の壁に阻まれた理不尽な記憶を演説に重ねたのだろう。トランプ氏の粗野な言動が繰り返された後に聞く彼女の演説には、包容力を備えた言葉の強さと温かさがあった。

 私たちの国は菅義偉政権になり、2人の杉田氏を巡って多様性を考えさせられる問題が起きた。日本学術会議人事では杉田和博官房副長官が関与し、排除以外には考えにくい任命拒否が行われた。首相がその理由に持ち出した「多様性」は実態にほど遠く、言葉に血が通っていない。

 自民党の杉田水脈(みお)衆院議員は性暴力被害について「女性はいくらでもうそをつける」と発言した。被害女性が虚偽申告するかのようで、女性蔑視も助長する内容だが、首相は明確に批判していない。これが政権与党の多様性ですかと皮肉も言いたくなる。

 多様性を語るには人々の境遇に想像力を働かせ、異論に耳を傾ける姿勢が肝要だ。ハリス氏のような心に届く言葉を備えた政治家は日本にどれだけいるだろう。 (論説委員)

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