異国望む最果ての地 宗谷岬(北海道)

西日本新聞 夕刊 中原 岳

 岬を訪ねるのが好きだ。時間と手間をかけ、たどり着いた地の果てに広がる絶景は、まさに旅人へのご褒美だ。鹿児島県の佐多岬や高知県の室戸岬、北海道の襟裳(えりも)岬…。これまで各地の岬に立ってきたが、日本本土最北端の宗谷岬(北海道稚内市)には心残りがあった。10年前に訪れた時、岬から43キロ先にある樺太(現サハリン)が悪天候で見えなかったのだ。10年越しの夢をかなえようと、8月下旬に北の大地へ飛んだ。

 1日目は新千歳空港から列車を乗り継ぎ、旭川市の北約70キロにある名寄(なよろ)市で1泊。翌朝、JR宗谷線の普通列車で北上した。音威子府(おといねっぷ)駅で、宗谷バス天北宗谷岬線に乗り換えて3時間半。宗谷岬バス停に降り立った瞬間、ひんやりした潮風が身をなでた。青く澄んだ空には入道雲は見当たらず、ふわふわした細切れの雲が浮かんでいた。

 宗谷海峡を望む岬では三角形のモニュメントを背景に、観光客が代わる代わる記念撮影を楽しんでいた。そばには、江戸幕府の命令で樺太を探検した間宮林蔵の像があった。林蔵が見つめる視線の先には南端の能登呂半島があるはずだが、水平線付近は視界が悪く見えなかった。

 「やっぱり今回も駄目かぁ…」。落胆して岬近くの民宿にチェックイン。「樺太は夕方になったら見えることもありますよ」。おかみさんが励ますように言ってくれた。地元の人はサハリンでなく、普通に樺太と言う。樺太の地名はアイヌ民族の言葉に由来するとの説がある。私も古くからの呼称をあえて使ってみたい。

 午後6時、夕暮れを迎えた岬に立った。藍色の宗谷海峡のかなたに目を凝らした。うっすらと黒い影が見えた。雲にしては、形がごつごつしている。樺太の山並みだった。

 樺太南部は太平洋戦争終結まで日本が統治し、現在はロシアが実効支配する。福岡市から福岡県大川市や佐賀県唐津市までとほぼ同じ距離に「外国」が見えるのは、新鮮な体験だった。

 日が沈み、風がいよいよ冷たくなってきた。宿に戻って晩ご飯。お盆には刺し身や牛肉のソース煮など、和洋多彩な料理がぎっしり並んだ。主役は宗谷海峡でとれたミズダコを使った名物料理「たこしゃぶ」だ。

 昆布だしの熱い汁に、透き通るほど薄くスライスされたタコを数秒間くぐらせ、ごまだれをつける。タコは半解凍の状態だったが、程よい軟らかさになった。口に入れると、じんわりとうま味が広がった。「宗谷岬まで、はるばる来て良かった!」と心の中で叫んだ。

   ◆     ◆

 宗谷岬の朝は早い。部屋に冷房設備がなく、窓を網戸だけにして寝ていたら、夜明け前の真っ暗な海からブロロロロ…とエンジン音が響いてきた。タコ漁の漁船だろうか。

 午前4時すぎには海がはっきり見えるほど明るくなった。空はどんより曇り、樺太は見えそうになかった。前日の夕方に見ておいて良かった。

 午前9時半に宿を出て、岬周辺を散策した。「流氷とけて 春風吹いて」で始まる名曲「宗谷岬」や宮沢賢治の詩などさまざまな碑があった。

 特に目立ったのは、平和を祈るモニュメントや遺構だ。太平洋戦争中の戦没者慰霊碑、1983年9月にサハリン上空を領空侵犯した旅客機が旧ソ連の戦闘機に撃ち落とされた「大韓航空機撃墜事件」の犠牲者を悼む「祈りの塔」…。宗谷海峡を監視した「大岬旧海軍望楼」も保存されていた。

 国防や国境の最前線だっただけに、国際的な緊張に度々直面してきた宗谷岬。それにしては穏やかな海が、目の前に広がっていた。

日本最北端の終点JR稚内駅

 温泉、映画館、マラソン大会…。北海道稚内市は「日本本土最北端」の宝庫だ。当然ながらJR宗谷線の終点、稚内駅は日本で最も北にある駅になる。

 ホームには「日本最北端の駅 北緯45度25分03秒」と書かれた標柱や、日本最南端のJR駅、西大山駅(鹿児島県)からの距離3068.4キロを示す看板がある。駅前には「日本最北端の線路」として、車止めを使ったモニュメントも設置されている=写真。

 駅舎には土産物店やコンビニが併設され、列車の発車時刻直前まで買い物などを楽しめるが、稚内発の列車は特急を含めて1日7本しかない。乗り遅れには注意してほしい。 (中原岳)

【メモ】福岡空港から北海道の空の玄関、新千歳空港まで約2時間20分。同空港から稚内空港行きの便があり、55分で到着する。羽田空港経由でも稚内空港に行ける。

 新千歳空港からJR北海道の快速や特急列車を乗り継ぐ場合、福岡を午前中に出発する便に乗れば、当日中に稚内駅に到着できる。ただ稚内着が深夜になるため、旭川市など経路上の都市で1泊する方が無難だ。

今回の旅で音威子府駅から乗った宗谷バス天北宗谷岬線は全長163.1キロで、国内屈指の長距離路線バスとして知られる。途中には廃線になったJR天北線の遺構や「天野宅前」「鈴木宅前」など個人名が付いたバス停がある。時間に余裕があれば、土産話に乗ってみてはいかがだろうか。

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