「どこに住めば」戸惑う住民 斜面地の開発制限 北九州市議選の論点に

西日本新聞 北九州版 山下 航 菊地 俊哉

 北九州市は防災や空き家対策として斜面地の住宅を減らそうと、一部の斜面地の開発を制限し、利便性の高い平地へ誘導する全国でも珍しい取り組みに乗り出している。人口減や高齢化に歯止めがかからない中、コンパクトな街を目指す先進的な取り組みとして注目されるが、先行して候補地に選ばれた八幡東区の住民の間に動揺が広がっている。年明けの市議選でも各候補者の論戦に注目が集まりそうだ。

 開発制限の候補地の八幡東区東部、山肌に張り付くように並ぶ家々の合間には、急勾配の階段や自動車が通れないような細い道路が目につく。

 「年を取って、ゴミ捨てや買い物がつらくなった」。70代の女性は斜面地の家に1人で暮らす。大雨が降ると、坂道を流れる大量の雨水に不安を覚えるというが、それでも「40年間、ここで生活してきた。できれば住み続けたい」とこぼした。

 市によると、2018年7月の西日本豪雨では市内約400カ所で土砂崩れが起き、門司区の斜面地の住宅で発生した土砂崩れで2人が死亡。このことなどをきっかけに市は同年末、都市計画の見直しを始めた。災害の危険性のほか、バス停までの距離や空き家率といった指標に基づき、19年末に八幡東区の約292ヘクタール(約5400棟、約1万人)を開発制限の最初の候補地に選んだ。

 市は本年度中にも、他の市内6区の中から複数の候補地を選定し、来年度中に八幡東区も含めて開発制限地域を確定させる予定だ。市都市計画課の古田祐一郎課長は「強引に移住させるものではない。住民に理解してもらうため、丁寧に説明を尽くす」としている。

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 だが、自らの住まいが候補地に組み込まれた住民からは不安や憤りの声が上がっている。

 今月4日、同区では地権者向けの説明会(定員50人)が4回開かれ、毎回ほぼ満席となった。会場からは「(住宅や土地の)資産価値が下がる」「空き家がもっと増える」といった批判的な意見が目立ち、「どこに移り住めばいいのか」などと怒号が飛ぶ場面もあったという。

 二十数年前に購入した家のローンがまだ残っているという説明会に参加した50代女性は「引っ越すには経済的負担がかかる。援助策を考えてほしい」と訴えたが、市は「ゼロ回答」だったため、転居するつもりはないという。

 同区にある全25の自治区会のうち、候補地があるのは11区会。区自治総連合会は、11区会から寄せられる住民の意見をとりまとめて市に提出する予定で、市は「基本的には住民の意見を反映させる」としている。住民の中には防災の観点から開発制限に理解を示す人もおり、同連合会の宮地久男会長(71)は「目先の利益だけでなく、20年、30年先を見据えて結論を出すことが大切。時間をかけてでも、多様な意見を吸い上げたい」と話す。

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 「反対と言えれば良いが、市の考えも分かる」と話すのは同区選出の市議。別の市議たちからは「候補地は広く、影響が大きすぎる。市の方向性は理解できるが、今の計画案のままなら反対」「住民に『議員は動いてくれない』と思われかねない。議会などで市に見直しを求めていく」などの声が上がり、受け止めには幅がある。

 同区で立候補を予定する男性は「(開発制限は)住民から寄せられる相談の中でダントツに多い」と指摘。選挙ビラの政策欄のトップに記述する予定で、「議員の存在価値が問われている。地域の声を議会で代弁したい」とアピールする。

 3年前に新築の一戸建てに引っ越した30代のパート女性は、自然豊かな周囲の環境が気に入っているが、開発制限の候補地に突然組み込まれ不安を隠せない。「市議選の候補者には施策への賛成、反対にかかわらず、自分の言葉で考えを語ってほしい」

 (山下航、菊地俊哉)

【北九州市の斜面地の開発制限】北九州市は斜面地の住宅地について、開発可能な都市計画法上の「市街化区域」を、住宅の新築などの開発を原則抑制する「市街化調整区域」に編入する取り組み(逆線引き)を進めている。対象となった地域では30年ほどかけて無居住化を目指すが、移住を強制するものではない。調整区域では都市計画税が徴収されなくなるほか、開発抑制によって固定資産税の土地評価額が下がる可能性がある。

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