菅首相「外交がやりやすくなる」 米国との「あうんの呼吸」復活か

西日本新聞 総合面 古川 幸太郎 湯之前 八州

【再生 バイデンの米国】(4)

 上々の滑り出しに安堵(あんど)感が漂った。12日朝、菅義偉首相は米大統領選を制した民主党のバイデン前副大統領と初の電話会談に臨んだ。2人のやりとりを知る政府関係者は思わず周囲に漏らした。「予想以上に踏み込んでくれたなあ」

 日本側が喜んだのは、沖縄県・尖閣諸島日米安全保障条約第5条の効力が及ぶことを、バイデン氏が自ら切り出したことだ。ちょっとでも日本に手出しすれば、用心棒の米国が許さない-。そんなメッセージで中国をけん制し、日本を安心させたバイデン氏に、首相官邸や外務省は「さすが、よく分かっている」とうなった。

 成果はもう一つある。外務省は今回、北米局幹部がバイデン氏側と入念に打ち合わせ、双方が発言を事前に準備した。予測不能なトランプ氏の「ディール(取引)外交」に悩まされてきた政府にとって、外交当局同士の「あうんの呼吸」が復活する意味は大きい。

 官邸筋は「政策の擦り合わせができる」と期待する。首相も周囲に「外交がやりやすくなる」と話しているという。

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 バイデン氏はオバマ前政権の副大統領として外交政策を主導してきた。2011年の訪日では宮城県を訪問し、東日本大震災の被災者とも触れ合った。米軍再編問題など日米の機微にも通じている。

 ただ、歴代政権の日米関係を振り返れば、中曽根-レーガン、小泉-ブッシュ、安倍-トランプと米国が共和党政権のほうが相性がいい。日本にとって民主党政権は「苦手」(外交筋)と言っていい。

 しかもオバマ政権との苦い記憶にはバイデン氏も絡む。13年12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝を巡っては、バイデン氏が安倍氏に電話で自重を促した。だが安倍氏はこれを振り切って参拝し、バイデン氏の「失望」を買った。

 日米関係は一気に冷え込み、安倍政権は同盟の立て直しを迫られた。官房長官として米国の圧力を体感した首相は当時を振り返り、「オバマ(前)政権の時はひどかった」と周囲に漏らしたこともある。

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 安倍氏はゴルフクラブを携えて訪米し、トランプ氏の懐に飛び込んだ。首相はバイデン氏にどう「接近」を図るか-。

 頼りにするのは以前から交流があるケネディ元駐日米大使だ。ケネディ元大統領の長女で、オバマ氏の広島訪問に尽力するなど、民主党内にも影響力を持つ。首相は米大統領選の結果判明前から「ケネディ氏が『バイデン氏を紹介する』と言ってくれている」と周囲に公言してきた。

 ただ、そもそも新政権の関心がどれだけ対日外交に向くかは定かでない。「内向き」の政治の流れは政権交代でも変わらず、バイデン氏は国民の融和やコロナ対策といった内政にかなりの政治的エネルギーをそがれるとの見方は強い。

 一方で経済関係を重視する日本の対中外交に口を挟んだり、抑止力の依存を逆手に安全保障の負担増を迫ったりと、日本の弱みを突いてくる可能性もある。上智大の前嶋和弘教授(米現代政治)は「日本の動きを知り尽くしたバイデン氏の方がやりにくい。対米関係のかじ取りは安倍前政権時よりも難しい」と指摘する。

 (古川幸太郎、湯之前八州)

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