飲み忘れや重複投薬防ぐ 薬剤師の訪問指導、動き広がる

西日本新聞 くらし面

 薬剤師が在宅患者の家庭を訪問し、薬の適切な管理を指導する動きが広がっている。多くの薬を服用する高齢者は飲み忘れや重複投薬が起きやすく、副作用の危険もある。訪問指導はこうした事態を防ぎ、医療費の抑制にも効果が期待できるという。国も薬剤師への報酬を拡充するなど後押しに乗り出している。

 福岡市早良区にある「よつば薬局田村店」の薬剤師石橋正次さん(48)は10月中旬、薬局から車で約15分のところにある区内の男性患者(76)宅に向かった。

 男性は妻(67)や長女(41)と3人暮らし。2017年に大腸がんと肝臓がんの手術を受けた。現在は心臓にペースメーカーをつけ、血糖値や血圧を下げる薬や睡眠導入剤など11種類の薬を1日6回に分けて服用する。だが認知症もあり、飲み忘れが多い。2週間で10回分の薬を飲み忘れたこともあった。

 石橋さんは主治医の紹介で17年10月から2週間に1回、男性宅を訪問している。石橋さんはまず曜日や「朝食後」「昼食後」「夕食後」「寝る前」などの時間帯別に薬を整理できる「服薬カレンダー」の購入を勧める一方、薬局で複数種類の薬を毎日の日付と時間帯ごとに一包ずつまとめて包装して表に印字し、訪問日に持参して服薬カレンダーのポケットに差し込んで整理した。また日頃は妻が毎回薬をカレンダーから取り出して男性に手渡すようにした。結果、飲み忘れはほぼなくなった。

 この日、石橋さんは服薬カレンダーに2週間分の薬を差し込み、「便は出ますか」「夜にトイレに行く時にふらつきませんか」と体調を確認した。妻は「薬が多くて管理が大変だったが、石橋さんに相談できるので安心」。男性は「自分で考えたり、迷ったりせずに済む。助かる」と話す。

 石橋さんは現在、患者10人の訪問指導を担当。「訪問を重ねれば家庭内で鍵となる人物が分かり、適切に助言できる」と語る。

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 薬剤師の訪問指導は近年、急増している。厚生労働省によると、介護保険や医療保険を利用した訪問指導は17年度、全国で計約932万回。07年度の約5・5倍だ。同省は「高齢化に伴い在宅患者の需要が増えた」と分析する。

 背景には「多剤併用」の問題もある。1人の患者が薬局で受け取る薬は75歳以上の4割が5種類以上。持病をいくつも抱えて複数の医療機関や診療科にかかると、医師は薬の全体量や種類を把握できず、多剤併用になりやすい。同じ効果の薬が重複して処方されたり、食欲低下やふらつき、便秘、排尿障害など副作用の恐れが増したりする。

 重複投薬や薬の飲み残しは医療費の無駄を生む。17年度の医療費は過去最高の約43兆円(前年度比2・2%増)。うち調剤医療費は2割近くを占めた。東京大大学院の秋下雅弘教授(老年病学)は「重複や飲み合わせたら駄目な薬を把握するにはかかりつけの薬局を持ち、薬剤師に相談することが大切だ」と指摘する。

 同省は15年度、「患者のための薬局ビジョン」を策定。服薬情報を一元的、継続的に管理するためかかりつけ薬剤師・薬局の普及や医療機関との連携を提言した。16年度には診療報酬の改定でかかりつけ薬剤師の服薬指導料を新設。本年度は緊急時に医師の求めで患者宅を訪問指導した薬剤師への報酬を拡充した。

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 福岡県薬剤師会は19年度、75歳以上の患者が無料で利用できる「訪問服薬指導事業」を始めた。服用率の向上▽飲み残しや重複投薬の解消▽お薬手帳(1人1冊)の普及-が目標だ。

 対象は薬剤師が窓口のやりとりなどで適正な服薬指導が必要と判断した患者。主治医の了解を得た上で患者宅を原則2回訪問指導し、主治医に報告する。

 19年度は薬剤師59人が参加し、患者79人の家庭を延べ150回訪問した。薬剤師へのアンケートでは、8割近くの患者の服用率が向上。お薬手帳を複数冊持っていた人の約7割が1冊にまとめた。飲み残しは約9割が改善した。

 福岡県の75歳以上の1人当たり医療費(18年度)は117万8616円。10年以上にわたり全国1位だ。県薬剤師会の木原太郎常務理事(53)は「訪問により実態を把握でき、指導しやすくなった。服薬の適正化は医療費の節減にもなる。訪問指導の経験のない薬剤師も多い。取り組みをさらに広げたい」と話す。 (梅本邦明)

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