ミャンマー総選挙 与党圧勝 スー・チー政権継続へ

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 【バンコク川合秀紀】8日投票のミャンマー総選挙は13日、開票作業が進み、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる与党国民民主連盟(NLD)が改選議席の8割以上を獲得。2015年の前回選挙を超える圧勝を果たす公算大となった。前回選挙で国軍支配の政治に終止符を打ったスー・チー政権の継続が確定し、来年3月までに新政権が発足する。

 改選は上下両院計476議席。選挙管理委員会によるとNLDは確定した456議席中384を獲得。NLDや主要メディアの独自集計を総合すると、最終的に390議席を上回る勢いだ。前回選挙で、NLDは改選491議席中、79%の390議席を獲得して国軍系の最大野党の連邦団結発展党(USDP)を破り、政権交代を果たしていた。

 半世紀続いた国軍支配への拒否感が根強い中、NLDはスー・チー氏の国民的な人気を生かし国民の約7割を占める都市部のビルマ人らの支持を集めた。治安悪化を理由に複数州で計22議席分が投票中止となり、こうした州を地盤とする少数民族政党の議席が伸びなかったことも相対的な「NLD圧勝」につながった。

 上下両院は非改選の軍人議員166人を加えて構成。来年3月までに両院全議員による投票で大統領を選び、新政権が発足する。NLDが改選議席の8割を獲得すれば、両院の約6割を占めることになる。

 一方、13日までに確定した議席数が前回の41から28にとどまる最大野党USDPは、二重投票や票の買収など多くの不正があったとして再選挙を主張したが、選管は「根拠がない」と拒否。日本を含む選挙監視団も大きな問題はなかったとの声明を出している。

進まぬ和平交渉実績なく

 ミャンマーで半世紀にわたる国軍主導の政治に終止符を打った前回総選挙から5年。民主化運動の象徴、アウン・サン・スー・チー国家顧問(75)率いる政権に対する初の審判となった総選挙で与党が圧勝し、前回以上の信任を得た。ただ、5年前に掲げた公約はいずれも果たされず、解決の道筋すら見えない。「スー・チー人気」に依存した信任は危うさをはらんでいる。

 「党はよく知らないが、彼女は母親、それ以上の存在だから」。10月初め、タイでの在外投票に早朝から並んだミャンマー人男性のウィンナインさん(42)はスー・チー氏への敬意を示した。投票先は与党国民民主連盟(NLD)の候補。10人前後を取材したが、いずれもスー・チー氏の名を挙げ、NLDに投票すると答えた。

 独立の父とされるアウン・サン将軍の娘で、軍事独裁政権下でも弾圧に負けず民主化運動をけん引したヒロイン-。こうしたイメージは今も根強く「信仰心に似た支持」(ミャンマー人記者)がある。

 9月から感染者が急増する新型コロナウイルス問題では、対策チームのトップとして会員制交流サイト(SNS)で頻繁に演説し「節制と団結」を強調。イスラム教徒の少数民族ロヒンギャ難民問題で国際社会から「大量虐殺」と批判された際には、昨年末の国際司法裁判所に自ら出廷して反論した。こうした行動が危機に立ち向かってきた彼女のイメージと重なり、国内では喝采を浴びた。

 NLD苦戦との事前予想もあっただけに、地元メディアの記者は「国民に国軍への拒否感が強いのは理解できるが、明らかに勝ち過ぎだ」と漏らした。

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 だが、政権の実績は理想とは程遠い。

 自治拡大を訴える多くの少数民族勢力との和平交渉は進まず、国軍との関係は悪化の一途をたどる。今回の総選挙で、政権は治安悪化を理由に22選挙区を投票中止としたが、少数民族政党の支持者が多いラカイン州とシャン州の一部だったため「少数民族政党が不利になる政治的な決定」と批判された。

 議会の25%を占める軍人枠削減など国軍の影響力低減を狙った憲法改正案も今春、議会でことごとく否決された。実現には軍人議員の賛成が不可欠だが、国軍側と事前交渉した形跡はなく、州の自治拡大につながる改憲案にはNLDも反対した。

 さらに人口の約7割を占めるビルマ族の支持を受け「NLDの利益」を最優先するような姿勢もあらわになり、国軍と対抗するため政権と共闘してきた少数民族勢力には不満と失望が広がり、外交筋は「NLDとの溝は深まっている」と指摘する。

 NLD結党当初の仲間たちも離反し、相次いで新党を結成。若者によるインターネットでの「NO VOTE(投票拒否)」運動も起きた。民主化運動から約30年。政権運営の厳しい現実と世代交代の波を受け「スー・チー離れ」は徐々に広がっている。

 NLDは再び公約に国内和平と改憲を掲げるが、国軍、少数民族勢力の双方と対立を深める現状では、またもや公約が口約束に終わりかねない。

 スー・チー氏は政権発足直後の2016年4月、国民に向けたあいさつで「私たちに政治経験が少ないのは事実」と語り、課題解決には時間がかかると理解を求めた。国民から熱狂的に支持されてきた「ヒロインの訴え」が単なる「権力者の言い訳」に変わる日は、刻一刻と近づいているのかもしれない。

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