歓喜の裏にのぞく排斥

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 ワシントン支局は、ホワイトハウスから歩いて7分ほどのビルの10階にある。米大統領選で民主党バイデン前副大統領の「当確」情報が流れた7日昼前(日本時間8日未明)はそこで待機していた。

 速報から10分ほどたった頃、締め切り間際の朝刊用作業でまだバタバタしている最中に、窓の外から車のクラクションの音が聞こえ始めた。バイデン氏の当確を知った市民たちの祝意の印だ。

 ホワイトハウス周辺に向かうと、近くの道路では渋滞が始まり、警官による黒人暴行事件後に「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」と改称された通りには市民が続々と押し寄せてきた。

 話を聞いた人々の中に、それぞれ移民の親を持つ男性(25)と女性(67)がいた。トランプ政権が不法移民だけでなく、合法的に入国する労働者の規制強化も進めていることに「米国のあるべき姿ではない」と怒り、バイデン氏の勝利で政策が変わると、心の底から喜んでいた。

 ただ、2人の発言には共感し難い点もあった。

 男性は「トランプは今日中にホワイトハウスから去れ」と叫んだ。敗北が確定しても居続けるのは民主主義の否定であり、許されない。それでもトランプ氏は4年前の選挙で選ばれた大統領であり、任期はまだ残っている。「即日出て行け」というのは、それこそ民主主義の否定だ。

 女性は「トランプ支持者とは分かり合えない」と語った。確かに、差別に満ちた白人至上主義者などは論外だが、バイデン氏は「私に投票しなかった人のためにも尽くす」と、国民に融和を呼び掛けている。そのはなから対話を拒むような姿勢でいいのか。

    ☆   ☆

 ここ数日、民主党議員や「反トランプ」で知られる人気テレビ番組の出演者からは、トランプ氏の側近たちについて再就職の道を閉ざし、社会から締め出すべきだといった意見も出ている。

 こんな極論が出るのは、根拠に基づかないトランプ氏の暴言を戒めるどころか、広めようとした側近の言動に原因がある。だからといって彼らを徹底的に排斥するような風潮を助長しては、トランプ氏の支持者は納得しない。

 「バイデン氏が言うように融和を望む。でも多くの時間も労力もかかる」。ホワイトハウス前で、多くの人が後ろ向きの言葉を口にした。米国の政治も社会も、長く対立を重ねながら今に至る現実を直視すれば、過度の期待はできないというのが本音だろう。

 当確情報から1週間。トランプ氏が負けを認めない状況が続き仕方がないとはいえ、選挙前とほとんど変わらない、ぎすぎすした雰囲気を感じる日々はやるせない。

 (ワシントン田中伸幸)

 =随時掲載

PR

国際 アクセスランキング

PR

注目のテーマ