剣道、感染防止の「規制」に戸惑い 声出せず、「つばぜり合い」も…

西日本新聞 くらし面 小林 稔子

「コロナ禍の子」(5)試合

 プラスチックのマウスシールドとマスクを着用して動いてみると、想像以上に息苦しい。剣道にはおなじみの大声は出せず、本調子が出しづらい。福岡市早良区の次郎丸中2年、小野絢菜さん(13)は剣道歴6年。コロナ禍で始まった感染防止策に、いまだに戸惑ってしまう。

 所属する中学の剣道部が、約3カ月ぶりに練習を再開したのは6月下旬だった。学校の武道場の扉を開けると、防具のにおいが鼻を突く。思わず懐かしさで胸がいっぱいになった。床や扇風機にはうっすらとほこり。他の部員たちと一緒に、まずはぞうきんがけから始めた。

 練習の再開に際し、順守したのは全日本剣道連盟がまとめた感染防止策のガイドライン。面の内部の口元に厚さ1ミリほどのマウスシールドをはめ込み、さらにマスクも着用する。

 動いてみると、面の中には熱気がこもった。猛暑に見舞われた今夏は特につらかった。「まるで頭だけサウナ状態みたい」

 市販の不織布マスクは呼吸が荒くなるほど口に張り付く。「呼吸さえも十分にできない」。剣道歴18年で現在も剣道場に通う母が手ぬぐいを使い、マスクを手作りしてくれた。口とマスクの間に空間ができるよう折り目が付けられ、形が維持されるよう鼻部分にソフトワイヤが入っていた。

「体当たり」で乱れた集中

 そんな状況でも、少しずつ日常が戻ってきた喜びをかみしめ、日々の稽古に励んだ。9月には、他校との小規模な練習試合に参加した。

 いつものように相手の隙を狙って面を打ち込み、その勢いで相手に体ごとぶつかっていった。相手の体勢を崩すのに有効な戦法で、「体当たり」と呼ばれる常とう手段。

 パチン-。当たった瞬間、いつもとは異なる音が響いた。相手を見ると、面の内側でマウスシールドが外れていた。「あっ」。思わず互いに声が出た。相手選手は小野さんよりも小柄で、手が面に当たっていた。

 打ち合いを続けずに、互いに少しずつ後ろに下がると、審判が気付いてタイムとなった。誰もが日常的に使う技が、思わぬ状況を招いたことに動揺した。

 相手は面を外し、顧問が外れたマウスシールドをはめ直した。試合は再開されたが、どうしても気になってしまう。「また衝撃で外れて、もし目に当たったらどうしよう」。相手も同じように考えたかもしれない。ぶつかり合いを互いに遠慮するような展開となり、両者一本も取れないまま試合時間の3分は終了した。

 この時から、自分と背丈が違う相手と交えるのが怖くなった。

昇段審査は「楽しみ」

 いざ練習試合に出てみると、これまでとは異なる「ルール」が増えていたことを痛感した。

 連盟のガイドラインでは、普段の練習での発声について「極力抑制」と指摘されている。ただ勝負に集中していると、長年の癖でつい、気迫を込めて声を放ってしまう。審判に注意されると、声を抑えようと思う余り、目の前の相手に集中できなくなる。気持ちや技の正確性を高めるため、発声は欠かせなかったのだけれど。

 竹刀のつばで互いに押し合う「つばぜり合い」も避けなければならない。密接している相手の表情や呼吸を読みながら、次の一手を考え積極的な攻撃につなげる展開もできなくなった。「これまではがむしゃらにやれていたけど、制限が多くて伸び伸び動けない」

 影響は試合後にも及ぶ。他校の部員と言葉を交わし、試合内容を振り返る機会もなくなった。「感染防止」と言われればしょうがないとは思うけれど、胸の内はもやもやとする。

 そうした状況でも、剣道に対する思いが薄れる訳ではない。現在、楽しみなのは12月に行われる昇段審査会。初段に挑戦する。筆記に加え、技を披露する実技が行われる。

 マスクを着ける必要はあるが、試合のように「規制事項」に気を使わなくてもいい。頭で気にしながら竹刀を振るうのではなく、体で覚えたことを存分に発揮できる場が待ち遠しい。 (小林稔子)

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