【スポーツとコロナ対策】 鯉川なつえさん

西日本新聞 オピニオン面

◆多様な価値観を起点に

 スポーツの季節。各地で試合が再開されている。私も9月からは、ほぼ例年通りの試合に、新しいルールを順守しながら参戦している。学生陸上競技では、アスリートとチーム関係者は全員、試合2週間前からの体温や体調を記入した、新型コロナウイルス感染症に関するチェックシートの提出が義務付けられ、引き換えにIDを受け取る。

 公道を利用する駅伝やロードレースでは、各チームが責任を持って関係者に沿道での応援や観戦の禁止を周知させた上で「応援禁止の同意書」を提出しなければ、エントリーできない。遠征の際は、マスク着用、消毒グッズ携帯は当たり前。競技会場に入る際は、検温と消毒をし、それを証明する紙製リストバンドを装着する。私のチームでは遠征先での食事は全てテークアウトの弁当を手配している。

 これだけやっても、遠征先の住民から「何しに東京から来たんだ」と怒りをぶつけられたアスリートもいる。何が正解かは分からないが、感染予防に加え、不安や恐怖を抱く方々に理解してもらおうと、主催者も参加者も考え得るあらゆる策を講じている。

    ◆   ◆ 

 コロナ禍での新しい様式は、日本のスポーツ文化を変える発想にもつながる。アマチュアスポーツ競技会を無料観戦できる国は日本ぐらいだろう。欧米では、小さな大会でも観戦料を徴収する。競技会での観戦料徴収はスポーツの価値を高めるためにも促進すべきだ。コロナ対策費にも回せる。

 女性アスリートが競技会場で性的な目的で撮影されたり、わいせつな加工が施された画像が拡散されたりする盗撮被害対策を進める契機にもしたい。長年にわたって手をこまねいていたが、競技会場の入場者全員に検温ができるのだから、手荷物チェックの義務化などわけないだろう。事前登録者以外の撮影は完全に禁止してほしい。

 無観客試合で活用されているインターネットによる「ライブ配信サービス」はプロ、アマを問わず、スポーツ観戦の主流になりつつある。スピード感のあるコロナ対策とともに、一気にスポーツ改革が進みそうだ。

 コロナ感染によって、練習や試合が中止になったという報道は連日のように耳にする。誰も、何も、責めることはできない。私も「試合に出られればラッキーだと思ってやろうよ」とアスリートに伝えている。そんな開き直りの精神は、スポーツができる喜びや楽しさを増幅させ、日々の練習では力の出し惜しみをなくした。コロナ禍でため込んだエネルギーを発散させるかのように、陸上界では好記録が続出している。

    ◆   ◆ 

 スポーツはルールによって成り立っていることを考えると、こんなに煩わしいコロナ対策を平然とやり続けられるアスリートはルールを守る天才だと思う。たとえ無観客でも、確実に開催されるかどうか分からなくても、決戦の時を信じて努力し続ける姿には頭が下がる。アスリートは風邪もひけない厳しい状況下で自己管理を徹底し、スポーツ現場の感染対策は日進月歩で“完璧”に近づいている。

 先月開かれた大学女子駅伝では、沿道にいたマスクをしていない人に「マスクをあげましょうか?」と声を掛けている方を見掛けた。一方、翌週の男子駅伝では沿道の人だかりに批判が集まった。

 規制を増やし、感染対策を取り締まり、対策を怠っている人に厳しく当たる風潮だけでは、来年の東京五輪の開催は難しいだろう。勤勉なアスリートを優しい心で応援し、自分とは異なる多様な価値観を認め合う気持ちが広がれば、東京五輪の開催を支える力になると信じている。

 【略歴】1972年、福岡市生まれ。筑紫女学園高-順天堂大卒。陸上の長距離選手として活躍。2001年、同大陸上部女子監督。同大スポーツ健康科学部准教授を経て19年から現職。14年から同大女性スポーツ研究センター副センター長。

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ