離婚訴訟、初めて傍聴してみた 「勝負あった」と感じたやりとり

西日本新聞 筑豊版 高木 昭彦

【筑豊総局長コラム】

 普通は犬も食わないのだろうが、下世話な好奇心をそそられた。裁判で離婚を争っている福岡県飯塚市の知人が、あたかも楽しいイベントのような軽いノリで離婚訴訟の傍聴に誘ってくれた。若い頃には刑事、民事の裁判を取材したが、離婚は記憶にない。当事者としての経験もない。公開夫婦げんかならちょっと怖そうだが、人生のまたとない勉強になるかもしれない。

 予備知識なしで傍聴するのも失礼なので少し予習した。2019年の人口動態統計によると、結婚件数59万9千件に対し離婚は約20万8千組で、ざっと3対1の割合となる。時間に換算すると2・5分に1組の夫婦が別れており、今やありふれた日常だろう。司法統計を見ると、離婚の90%は夫婦の話し合いによる協議離婚で、家庭裁判所で調停委員を交えて解決を図る調停で解決しない場合に裁判となる。ここまでもつれるケースは全体の1%程度とわずかだ。

 裁判は慰謝料、財産、親権、養育費を巡る争いだが、今回傍聴するのは単純に妻が別居中の夫に離婚を求めているケース。家裁飯塚支部に足を運んだ。
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 妻代理人「離婚を決めた原因は何か」
 妻「夫の酒癖、金遣い、信頼関係の崩壊」

 法廷では、妻と夫に対し、双方および裁判官が夫婦関係などについて質問する本人尋問があった。妻は開廷前、のぞき窓から夫の姿を久々に見て動揺した様子だったが、いざ尋問が始まると被告席の夫にはまったく視線を向けず、じっと正面の裁判官を見て淡々と答えた。代理人の弁護士と十分打ち合わせていたのだろう。

 夫「あなたこそ毎日酒を飲んでいたのではないか」
 妻「夫婦2人で飲んでいた」
 夫「結婚10周年の旅行、結婚20周年にあなたがほしがったバッグを贈ったことを覚えているか。今も楽しい思い出か」
 妻「覚えている。楽しかった」

 仲が良かった頃を妻に思い出させたいのか、それとも良き夫ぶりを強調したいのか。質問の狙いは分からないが、いずれにしろ公の場で夫婦の思い出を真面目に確認されるのは、かなりきつい。裁判官は表情ひとつ変えなかったが、聞いていて、いたたまれなくなった。

 夫への尋問も含め、2人の関係、子育て、仕事、病気がエピソード付きで明かされる。宣誓した通りに真実を語ったとすれば、2人の間で現実の受け止めが大きく異なっていた。夫婦は知らず知らずに違う世界を見るようになり、溝が広がるのか。それとも記憶が変質したのか。胸に手を当てて考えた。

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 裁判官「離婚しないために、話し合いをどうして1度も提案しなかったのか」
 夫「妻の精神状態を考えると、逆効果で無駄だと思った」
 裁判官「それはあなたの推測だろう。夫婦は同居が基本。どうして同居しないのか」
 夫「私の苦しい経済状態の問題だ」
 裁判官「別に責めているわけではないが、貧しくても同居している人はいくらでもいる。どうして離婚に応じないのか」
 夫「妻を今も愛している」
 裁判官(もどかしそうに)「それはいいとして、相手は別れたがっている。どうやって相手の考えを変えるのか」
 夫(10秒以上の沈黙後)「分からない」
 裁判官(わずかに苦笑を浮かべ)「もういいでしょう」

 法廷でのやりとりを見る限り、勝負あったと感じた。
 人ごとだから冷静に見られたが、当事者の精神的な消耗は想像に難くない。面倒くさがりで小心者の自分に離婚訴訟は耐えられないだろう。新しい人生のための通過儀礼は過酷だ。(筑豊総局長・高木昭彦)

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