GDPコロナ前水準遠く 先行き楽観できず

西日本新聞 総合面 中野 雄策

 内閣府が16日発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)は輸出や個人消費が持ち直し、前期比年率21・4%増と記録的な伸びとなった。新型コロナウイルス感染拡大で大打撃を受けた日本経済が回復に転じた格好だが、GDPの水準はコロナ禍前に遠く及ばない。感染「第3波」の広がりが懸念される中、企業や個人の経済活動が一段と冷え込む恐れもあり、先行きは楽観できない。

車の輸出回復 雇用、投資は慎重

 SUBARU(スバル)の国内唯一の完成車工場がある群馬県太田市。「真っ暗なトンネルの中にいる。希望の光が見えない」。同社の2次下請けの金属加工会社を経営する男性が嘆く。

 4月上旬、感染拡大による需要減などを受け、スバルの工場が完全に停止。男性の会社も仕事量が半分以下に激減し、従業員の出勤を週4日に減らした。

 スバルは5月の大型連休明けに稼働を再開。生産車の大半を輸出する北米の経済が急回復し、現在の生産はコロナ禍前の水準に戻った。ただ、男性の会社は他の取引先からの受注が戻りきっておらず、全体ではコロナ禍前の6割程度。従業員の出勤は元に戻せず、社員数十人の生活は、休業手当を国が補填(ほてん)する雇用調整助成金が支える。

 国内外でコロナ禍が続く中、業績の中長期の見通しが立たない。「遅かれ早かれ資金難になる」との懸念から、5月に地元金融機関から5千万円の融資を受けたばかりだが、今月中に同額の追加融資を受ける。設備投資には簡単に踏み切れず、学生の採用活動も中断した。男性は「まずは生き残り、会社を存続させる」と切々と語る。

 7~9月期GDPの回復をけん引した主因の一つは、前期比で7・0%増えた輸出。米国と中国向けの自動車が回復し、大手メーカーの9月の輸出は前年同期と同水準まで戻った。ただ、男性の会社のように経営難から抜け出せない中小の下請け企業はなお多く「今期は下請けの多くが赤字になる」(信用調査会社担当者)と予測される。

 欧米での感染再拡大も懸念材料で、メーカーは設備投資になお及び腰だ。西村康稔経済再生担当相は16日の記者会見で「企業のマインドが守りの状態で攻めになっていない」と指摘。日本経済は頼みの外需による景気回復が描けないままだ。

政府巨額支出 消費、足取り重く

 7~9月期のGDPは、民需の大半を占める個人消費の回復が押し上げた。外食、旅行、宿泊といったサービス消費などが持ち直し、前期から4・7%増えた。政府の消費喚起策「Go To トラベル」などの効果が大きかった。ただ、直近のピークだった消費増税前の19年7~9月期より7・8ポイントも水準が低い。

 影を落としているのは雇用、所得環境の悪化だ。働く人が受け取った賃金の総額を示す雇用者報酬(名目)は、7~9月期が前年同期比2・2%減で2期連続で減少。コロナ関連の解雇・雇い止めは7万人を超え、冬のボーナスが厳しいことも家計の財布のひもを固くしている。

 内閣府によると、日本の7~9月期のGDPは、コロナ感染拡大後の4~6月期の大きな減少からの回復は、52・2%にとどまる。米国は65・7%、ドイツは63・4%と10ポイント以上高い水準に戻したのと比べると、国際的にも回復ペースの鈍さが際立つ。

 冬場の感染再拡大が防げなければ、景気が「二番底」をつける恐れがある。ただ、感染者急増で「また人出が減った。街が死んでる」(東京・赤坂の飲食店関係者)といった悲鳴が既に各地から上がっており、感染拡大防止と経済活動の両立は厳しさを増している。

 政府は20年度第3次補正予算案で追加の経済対策を打ち出すが、「民需の回復は『道半ば』にも届いていない。巨額の財政出動でいつまでも下支えはできない」(内閣府幹部)。菅義偉首相は「経済を民需主導の成長軌道に戻す」と息巻くものの、コロナ禍からの脱却はなお見通せない。

(中野雄策)

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