水俣病、三池争議…「現場」の証言つづる書籍出版 

西日本新聞 社会面 藤原 賢吾

 水俣病三池争議、エンタープライズ闘争-。

 激動の戦後史に刻まれた九州の出来事を、西日本新聞のOBと現役記者が取材体験を基に振り返る書籍「現場」が刊行された。参加した47人は時に改めて現場を訪れ、再取材を重ねて「時代の証言」をつづった。

 「九州の主な出来事を取材した記者の肉声が聞こえるような本を出したい」

 2019年3月、元阿蘇支局長の島村史孝さんが元編集局長の稲積謙次郎さん(86)を訪ね切り出した。島村さんの熱意にほだされた稲積さんは、OBに声を掛け「記者たちの九州戦後秘史」刊行委員会を立ち上げて代表を引き受けた。委員会でテーマや筆者を選び52編を収録。一部は本紙夕刊で連載された。

 最高齢は執筆時99歳の先川祐次さん。米軍に接収されていた板付飛行場を舞台に、九州北部を襲った1953年の豪雨水害時に米軍輸送機で支援物資を届けた体験などを記した。

 稲積さんも「蜂の巣城」で知られる筑後川上流の下筌(しもうけ)ダム紛争を率いた室原知幸さんを振り返った。室原さんは典型的な肥後もっこすの頑固者でマスコミ嫌い。各社を退けたが、稲積さんは偶然実現したインタビューや手紙を通して懐に入り、当時室原さんを取材できた唯一の記者だったという。後に故人となった室原さんを描いた「砦(とりで)に拠(よ)る」の松下竜一さんも「大将とわたし」の佐木隆三さんも稲積さんを取材している。

 66年の福岡大博覧会で記者自ら米政府に掛け合い宇宙船模型の貸し出しを実現させた裏話や、本紙が力を入れる人権報道の先駆けとなった大分での同和問題キャンペーンの誕生秘話も明かされている。

 稲積さんは「新聞記者の取材力はフェイクニュースがあふれる現在も信頼性が高い」と指摘し、「修羅場をくぐって伝えた記者の肉声による戦後史が描けた」と力を込めた。「現場」は西日本新聞社刊、1540円。 (藤原賢吾)

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