見えない人に野鳥の声を…CD届け18年、ボランティアが活動に終止符

西日本新聞 くらし面 三宅 大介

 見えなくても、山歩きの楽しみを少しでも-。野鳥の声をCDに収め、全国の視覚障害者に毎年、無料で届けてきた福岡市のボランティアグループ「バードコール」が、今年で活動に終止符を打つ。定期的に里山で録音し、編集から発送まで手作業で続けて18年。「逆に全国のリスナーからエールを受け、交流できる貴重な機会になりました」。代表の田中良介さん(81)は、しみじみ振り返る。

 ホトトギスの鳴き声が約15秒。穏やかな旋律のBGMが続き、田中さんのナレーションが入る。「新型コロナウイルスや自然災害がありましたが、野鳥たちはいつもと同じ声で、よく鳴いてくれました」…。

 今年、制作した最後のCD「鳥好き良ちゃんの声の野鳥だより・2020年号」は約80分。例年と同様、「たくさんの録音の中から、悩みに悩んで選んだ」という約20種類の野鳥の鳴き声が収録されている。

収録は単独行動で

 里山が好きで、日本野鳥の会会員でもある田中さん。野鳥だよりを思いついたのは2002年。当時は朗読のボランティアなども務めており「目の見えない知人から、庭にビール、ビールと鳴く鳥がいるけど、何という鳥かと聞かれた」のがきっかけだった。

 ヤマガラだと教え、他の野鳥の鳴き声もカセットテープに録音して渡すと、喜ばれた。「障害者や行動が困難な人はなかなか自然の素晴らしさが味わえない。鳥の声を録音して届ければ、雰囲気が伝えられる」。知人の視覚障害者や支援者に対し、まずカセットテープでの配布を始めた。

 05年からCDを制作。録音は毎年秋から翌6月まで、主に福岡県内の山々に1人で入る。「雑音を極力拾わないよう、単独行動が鉄則」。パラボナアンテナのように大きかった録音機材も進化し、今ではICレコーダーに。編集は毎回、防音設備がある市の施設を借りて慎重に行った。

悩み打ち明けられ

 徐々にボランティア仲間も集まった。会員8人で手分けして、CDケースに1枚ずつ入れて梱包(こんぽう)し、発送。配布先は口コミで全国の点字図書館や盲学校にも広がり、現在、リスナーは約400人に上る。

 「癒やされました」「来年もよろしくお願いします」-。感謝の言葉がつづられたはがきや封筒が届くほか、直接電話があることも。「特にけがや病気によって視力を失った中途障害の人から、悩みを打ち明けられた」。失った経緯や、不慣れな暮らし…。「話せただけですっきりした」と言われることも多かった。

 「鍼灸(しんきゅう)師やマッサージの仕事を近年は整骨院が一手に引き受けるようになり、生計が立てられない人も多い」など視覚障害者が置かれた現実の一端も知った。

 ボランティアに携わって約20年。「確かにさまざまな技術革新により、障害のある人への暮らしのサポートは進んでいる。ただ、多様な人たちに対する社会の寛容さが、ますます薄くなっているように映るのが残念」という。

里山の環境守ろう

 活動資金はほぼ田中さんの持ち出し。市や社会福祉協議会などから何度も表彰を受け、「近年は企業側から資金の提供もいただき、ありがたかった」。

 韓国や台湾にも録音に出かけるなど活動の場が広がった一方、CDのBGMを作曲、演奏してくれた実弟で音楽家の浅野博司さんが5年前に亡くなるなど、メンバーも高齢化。自身も徐々に編集作業が負担となり、やむなく、今年を区切りにすることを決めた。

 「人口減少に伴って里山の維持もおぼつかなくなり、野鳥が元気に生息する自然環境が保たれていくのかも心配。誰にとっても安らぎのひとときをもたらす自然の大切さを、みんなで意識していってほしい」 (編集委員・三宅大介)

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