絵本ミュージアムが初の試み 「感性育み、生きる知恵教える」が原動力

西日本新聞 もっと九州面 藤村 玲子

 新型コロナウイルスの影響で、8月からオンラインで開催中の「NTT西日本スペシャル おうちで!絵本ミュージアム」(西日本新聞社など主催)。2007年の初回から携わる福岡アジア美術館(あじび、福岡市博多区下川端町)のラワンチャイクン寿子(としこ)学芸課長は、初の試みに手探りで取り組んでいる。それを支えるのは「子どもが最初に出合うアートである絵本は、感性を育み、生きる知恵を教えてくれる」との信念だ。

 一般から募った作品「100かいだてのいえ」の展示が始まった15日、あじびの会場にラワンチャイクンさんの姿があった。今回唯一のリアルな展示がにぎわう様子に「作品から熱量を感じ、ひと目見て感動しました」と声を弾ませた。

 昨年の第13回までに延べ60万人もが訪れた絵本ミュージアム。05年に企画が持ち上がったとき、ラワンチャイクンさんは「単なる原画展ではなく、子どもたちが絵本の主人公になれるような展覧会に」と考えた。人気絵本「ぐりとぐら」に登場する卵の殻の車を展示するなど、作品の世界を再現し、写真も自由に撮れるようにした。以来、現実に体感するというコンセプトは一貫している。

 1999年の開館時から勤めるあじびを「公園のように、親子で気軽に来てもらえる場所にしたい。子どもは未来の鑑賞者だから」と知恵を絞ってきた。キッズスペースがあった熊本市現代美術館を参考に、アジア各国の絵本を並べたキッズコーナーを2005年に設けたのもその一例だ。

 絵本ミュージアムとともに、一人娘の成長も見守ってきた。多忙でも寝る前には必ず絵本を読み聞かせた。「絵本を介して生み出される、濃密なひとときが貴重だった」。思春期の難しい時期も本の話題が2人の心をつないだ。今、親元を離れて学生生活を送る娘との話題も専ら本だ。

 絵本ミュージアムに長く携わって感じるのは「子連れで美術館を訪れるハードルを低くできたのではないか」ということだ。職場体験で訪れる中高生から「小さい頃、絵本ミュージアムに来ました」との声を聞くと、その定着を実感する。

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 絵本ミュージアムからは“副産物”も生まれた。会場で子どもたちの見守りを担当するボランティアたちが「絵本の読み聞かせをしたい」と申し出たのだ。数年の研修を経て、絵本ミュージアムの催しの一つとなった。12年、あじびの読み聞かせボランティアが正式に発足。月2回、キッズコーナーで読み聞かせ会を開いてきた。

 福岡市早良区の納田(のうだ)香代子さんは子育てが一段落したのを機に、ボランティア1期生に応募した。現在は読み聞かせや会場案内など複数の役割を担う。「絵本はしつけやマナー、人生の喜怒哀楽など、いろんなことを教えてくれる。読み聞かせは、子どもも大人も笑顔になるのがうれしい」。コロナ禍の本年度はまだ活動できていないのが、もどかしいという。

 オンライン開催は、遠方に住む人にも絵本ミュージアムの雰囲気を楽しんでもらえるという新たな可能性を示した。それでもラワンチャイクンさんは力を込める。「五感を使って絵本の世界を楽しめるのが、絵本ミュージアムの魅力」。来年は再び、あじびで開催したいと心から願っている。 (藤村玲子)

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