「流水型ダム」完成まで10年超 環境保護、住民合意…課題山積

 再び建設に向け前進する熊本県の川辺川へのダム計画。蒲島郁夫知事は国に、洪水時だけ貯水する「流水型ダム」(穴あきダム)への転換を求め、計画見直しなどを含めて完成までには10年以上かかる見通しだ。ダムや遊水地などを組み合わせた流域治水は、住民の合意形成が不可欠。乗り越えるべき課題は少なくない。

 川辺川ダムの従来の形態は、平時から水をためる「貯留型」。放流量を調節できるが、上下流を遮断し、生態系などへの影響が指摘されている。これに対し、流水型はダム下部の穴から常に水が流れ、土砂は堆積しにくく、上下流を魚類が移動しやすいという。

 治水機能のある全国570ダムのうち、流水型は2006年完成の益田川ダム(島根県)など五つ。立野ダム(熊本県)など9基で事業が進む。

 益田川ダムを巡っては、島根県による06年度の環境調査で、構造物がアユの遡上(そじょう)を一部阻害していたことが判明。県は「08年の調査でアユは確認され、大きな影響はない」とするが、その後調査はしていない。「アユが減った」という住民の証言もある。

 穴に土砂や流木が詰まらないよう、ダム上流部に捕捉用の構造物を設置するなど対策も施す。「記録的豪雨で山の斜面が崩壊し、大量の土砂や流木が押し寄せれば穴は詰まる。洪水調整機能を失う」「技術的に解消でき問題ない」…。専門家の見解は割れる。

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 国土交通省は08年8月、川辺川ダムを貯留型から流水型に変更した場合、洪水調整機能はほぼ同じで、本体着工後の工期を10年から9年に短縮できるとの試算結果を公表した。概算事業費も100億円縮減し3300億円になるとした。09年の計画中止までに道路付け替えなどダム関連工事はほぼ完了。ただ、すぐに本体着工できるわけではない。

 川辺川ダムは農業用水と発電にも活用する予定で国は1976年、特定多目的ダム法に基づく基本計画を策定。農林水産省と電源開発は事業から撤退したが、国は基本計画を廃止していない。蒲島氏が求める新たな流水型の治水専用ダムの建設には、この基本計画を廃止し、河川法に基づいた河川整備計画を策定しなければならない。前段となる基本方針も策定し直す見通しで、トータルで整備計画策定までは1年以上かかるとみられる。

 76年時点は制度がなかった環境影響評価(アセスメント)の調査対象になる可能性もある。

 蒲島氏は19日、国に環境アセスの実施を求める考えを明らかにした。国交省関係者は「環境アセスは一から事業を始める場合を想定していると思う」と明言を避ける。仮に対象となれば手続きに数年かかり、その間は本体着工できない。

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 流域治水は、ダムや農地を活用した遊水地、調整池、農業用クリーク(水路)、堤防の強化などのハードと迅速な避難態勢などのソフトを組み合わせ、防災機能を高める。具体案はこれからで、県幹部は「川辺川の筋にはほとんど調整池がない。『自分の田んぼは守るぞ』だけではなく、自分たちも負担しなければ流域の安全安心は守れない」と話す。

 漁業権の議論も残る。アユ漁関係者らでつくる「球磨川漁業協同組合」は過去2回、国が示す漁業補償契約案を否決。改めて契約案が示されれば、組合員(約980人)に賛否を問う。受け入れには3分の2の同意が必要で、堀川泰注(やすつぐ)組合長は「さまざまな考えがあり、結論は見えない」と話す。

 (大坪拓也)

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