やばいのはどっちだ 前田隆夫

西日本新聞 オピニオン面 前田 隆夫

 「やばい」が口癖の後輩がいる。驚いたときも、おいしいものを食べたときも「やばいっすね」を連発する。

 「日本語が乱れておる」と眉をひそめる向きもあるだろうが、世の移り変わりとともに言葉は変わる。辞書にもちゃんと書いてある。大辞林第4版(2019年9月発行)で「やばい」を引くと

 (1)身に危険が迫るさま。あぶない。 

 (2)不都合が予想される。 

 (3)若者言葉で、すごい。自身の心情が、ひどく揺さぶられている様子についていう。 

 元はならず者たちの隠語だったが、若い人たちが発すると、便利な感動詞になる。三省堂国語辞典は「すばらしい」「(程度が)はなはだしい」と、二つのニュアンスを的確に説明している。

 ところで、最近一番やばいニュースといえば、やはり米大統領選だろう。

 当落が決して何日もたつのに、大統領は負けを認めようとしない。トランプ氏、バイデン氏の支持者の集会やデモは殺気を帯び、けが人や逮捕者が出る衝突、暴力沙汰まで起きている。

 現地発の記事は、容易に収束しそうにない米国の分断を伝える。年明けの新大統領就任までに政権移行が円滑に進まなければ、米国はもとより、世界の不安定要素になりかねない。辞書にある通り、危険が迫り、不都合が予想される事態である。

 それにしても、大統領選に対する米国民の熱気、エネルギーには毎回驚かされる。巨額を費やして開催される集会は、派手に演出されたイベントそのもの。絶叫と歓声とスタンディングオベーションの連続は、胸焼けしそうなビッグサイズのファストフードのようだ。

 あんなに夢中になれるのはなぜだろう。投票率は未確定だが、過去100年で最も高い70%近くになるようだ。自国のリーダーへの強い期待の表れだとすれば、少しうらやましくもある。

 日本のトップを間接的に選ぶ衆院選の投票率は、前回の2017年が53・68%で過去2番目に低かった。昨年の参院選は48・80%に沈んだ。首長選も過去最低が目につく。15日に投開票された1県知事選と9市長選の半分が50%を割った。長く選挙取材をしてきたが、有権者の熱を感じることが減っている。

 暴力に発展する熱狂はごめんだが、無関心や諦めに覆われた選挙でよいはずはない。有権者の過半数が投票しないようでは、民主主義に「危険が迫り、不都合が予想されるやばい事態」になりはしないか。 (佐世保支局長)

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