昔の流行?地域信仰? ハート形手水鉢の謎 みやき町南部に点在

西日本新聞 佐賀版 星野 楽

 佐賀県みやき町南部に点在する「ハート形」の手水(ちょうず)鉢が、恋愛成就のパワースポットとして若者の人気を集めている。「ハートフルタウン」をうたう町によると、手水鉢は石造りで、多くは神社仏閣にある年代物らしい。24歳の記者も恋に焦がれるお年ごろ。寺社とハートという奇妙な組み合わせの謎に迫りつつ、御利益にあずかろうと、町観光アドバイザーの井手裕さん(69)とともに巡った。

 秋晴れの10月下旬。まず向かったのは、同町天建寺の宮村観音堂。一帯は筑後川を挟んで福岡県久留米市側にある飛び地だ。度重なる大雨で本流が変わり、でこぼこの県境が生まれたという。目当ての手水鉢は、お堂の隣にあった。水をためる部分がふっくらとしたハートの形をしている。本体の石は幅約45センチ、高さ約30センチで、側面に「天保5年」(1834年)の刻印がある。恋物語の舞台は江戸時代か-。想像が膨らむ。

 筑後川に掛かる全長426メートルの天建寺橋を渡り、同町天建寺の安永観音堂へ。手水鉢は境内の桜の下にあった。製作時期は文化15年(1818年)。「この地域一帯の石像は江戸期のものが多い」と井手さん。ハートは左右対称で、アオイの葉にも似ている。徳川家の「葵(あおい)の御紋」と関係があるのだろうか。

 町内にあるハート形の手水鉢は計六つ。五つは寺社周辺にあるが、一つだけ同町東尾の酒造会社「天吹酒造」の裏庭で発見された。同社の木下武文会長は「酒の神様を祭る松尾神社が敷地内にあるからではないか」と推測。数年前、会社の入り口付近に鉢を移したところ、「パワースポット」として口コミで広がった。「鉢を目的に訪ねてくる若者もいる。酒の神様に感謝です」と喜ぶ。

 「実は…ハート形ではないんです」。ここにきて、井手さんが申し訳なさそうに口を開いた。日本に古くから伝わる「猪目(いのめ)」と呼ばれる文様で、イノシシの目に魔よけや火よけの意味を込めたのが有力な説だという。他にも、お釈迦(しゃか)さまが菩提樹(ぼだいじゅ)の木の下で悟りを開いた伝説にちなみ、木の葉の形を模したという話も。残念ながら、ロマンチックな物語は出てこなかった。

 井手さんの調べでは、ハート形の鉢は、合併前の旧三根町の半径約2キロ圏内に集まっているという。みやき町教育委員会が町内5千以上の石造物をまとめた「町文化財資料等 調査・整理・収集・活用事業報告書」によると、鉢は小城市の石工集団が出稼ぎで町を訪れ、製作したとある。「石工職人の遊び心か、当時の流行か。地域信仰の影響かもしれない」。井手さんは隣接自治体の石像にも対象を広げ、研究を続けている。

 「面白い鉢が、1カ所残ってますよ」。井手さんに誘われて、同町西島の西乃宮八幡神社を訪ねた。樹齢約400年のクスノキが茂る境内の入り口。鳥居の脇に置かれた手水鉢は、星形の中に五角形をくりぬいた形をしている。末安千税宮司(76)は「祖父が宮司に就いた昭和初期には鉢があった。それ以前の文献は残っていない」。結局、手水鉢にまつわる疑問は解明できなかったが、恋に謎はつきものだ。今回巡った観音堂や神社の恋の御利益に期待したい。

 (星野楽)

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