防災大義、消える脱ダム 災害頻発で勢いづく公共事業

西日本新聞 社会面 鶴 加寿子

再始動 川辺川ダム(下)

 戦意ゼロの「敗北宣言」が時の流れを感じさせた。熊本県が川辺川にダム建設を容認する方針を固めたことが伝わった12日、かつて民主党に所属した立憲民主党の中堅議員は「もう行革っていう時代じゃないですから」とつぶやいた。

 2009年9月に発足した民主党政権は「コンクリートから人へ」を掲げた。当時の前原誠司国土交通相は就任会見で「公共事業見直しの『入り口』」として、熊本県の川辺川ダムと群馬県の八ツ場ダムの中止を宣言した。代替の治水案を持たないままの「見切り発車」だった。

 行き詰まりは必然だった。八ツ場ダムは2年後、民主党政権が自ら中止を撤回し、建設を再開した。球磨川流域で国や関係自治体が追求した「ダムによらない治水」でも、国交省が示す代替案は「過大で非現実的」(流域首長)なものしかなかった。

 そこに起きた豪雨被害。立民議員は「毎年のように大規模災害が発生し、犠牲者が出る。『対策事業は必要ない』なんて言えるわけない」とうなだれる。

 20日午後、国交省大臣応接室。流水型ダムの建設を求める熊本県の蒲島郁夫知事に、赤羽一嘉国交相は「全面的に受け止めたい」と即答した。思惑は明らかだ。官僚たちは口をそろえる。「ダム事業が再開できるこの機会を逃すべきではない」

 公共事業は長らく「悪者」だった。過大な需要予測や巨額の事業費が批判を浴び、小泉純一郎政権が削減を進めた。民主党政権が追い打ちをかけ、2000年代初頭に当初予算で9兆円超あった国の公共事業費は4兆円台に落ち込んだ。

 転機は政権交代で訪れた。安倍晋三政権は「国土強靱(きょうじん)化」を打ち出し、公共事業費はここ数年、約6兆円が続く。「国土強靱化」の緊急対策は本年度末に3カ年の期限が切れるが、自民党は来年度以降の5カ年で15兆円規模を投入するよう政府に求めている。

 頻発する異常気象と災害の激甚化が、ダムをはじめとする公共事業に追い風を吹かせる。「国土保全には当然、必要な額だ」と国交省幹部の鼻息も荒い。

 コロナ禍。公共事業が復権したその時代も、急速に逆回転している。

 公共事業費に限らず、安倍政権下ではアベノミクスがもたらした税収増を再投資する形で財政支出を膨らませてきた。だがそうした前提条件はコロナ禍で崩壊した。待ち構えるのは深刻な税収不足だ。

 「想定外の自然災害に脅かされる『命』を守るための公共事業だと強調されると、異論を挟みにくい。本来は人口減少が進む中でダム建設の費用対効果をどう考えるのかといった、多角的な検討がなされるべきだ」。五十嵐敬喜・法政大名誉教授(公共事業論)はそう指摘する。

 政府は治水効果に限界があることも認めつつ、ダム建設へと突き進む。「ないよりも、あった方がいいという政治判断」(国交省職員)が、国の懐事情や世論の変化で行き詰まることはないのか-。

 20日、国交省でダム建設のお墨付きを得た蒲島知事が興奮した声で言った。「(国は)普通は『聞き置きます』とかなのに、答えをいただいた」

(鶴加寿子)

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