「やれるとこまで」亡き母の言葉胸に 父子9人の一座 祝儀を被災地へ

西日本新聞 社会面 今井 知可子

 父と子ども8人で大道芸を披露し、寄せられたご祝儀を被災地に届ける一家がいる。福岡市東区の宮崎紀行さん(47)が座長の「福岡ゆめポッケ一座」。コロナ禍で福祉施設の慰問が難しくなり、神社境内などで投げ銭制の公演をしている。ともに芸を磨いてきた妻のみほさんは7月に41歳で急逝。「やれるとこまでやってみようよ」。みほさんの口癖を思い出しながら父子9人は舞台を続ける。

 「さてさてさてさて、さては南京玉すだれ」。22日、七五三の親子連れでにぎわう愛宕神社(福岡市西区)境内に次男直哉さん(16)の掛け声が響いた。にぎやかな手拍子に、晴れ着姿の子どもたちの足が止まる。

 三男健心さん(13)は人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」のキャラクターに似せた手作り衣装を羽織って直哉さんと剣舞に挑戦。長女まどかさん(17)を含めた3人を中心に芸を披露する。自閉症で人と接するのが苦手な長男透友(ゆきとも)さん(18)は副座長として音楽と撮影を担う。

 公演のラストが近づくと、近くで遊んでいた四男龍心さん(10)、五男羽雲(わく)さん(9)、次女すずかさん(8)、六男陸叶(りくと)さん(6)も集まり、人気曲「パプリカ」に合わせ親子9人全員で踊る。「心遊ばせあなたに届け」。母、みほさんへの思いを込めて-。

 トラック運転手だった紀行さんは9年前に脳梗塞となり、療養生活に。リハビリで始めた落語にはまり、高齢者施設に電話をかけて慰問に通い始めた。見ていた子どもたちが落語を覚え、みほさんもバルーンアートを始め、一座を組んだ。

 被災地ボランティアに長年取り組む吉水恵介さん=福岡市東区=と知り合い、地震や水害の被災地を慰問し、福祉施設などでのご祝儀を届けてきた。

 コロナ禍で慰問を中止していた6月。みほさんが急に「きつい」と訴え始めた。膠原(こうげん)病や肺炎を併発し、集中治療室(ICU)へ。7月、面会も困難な中で、スマートフォンの動画で「元気になったらママの鶏大根を食べたい」とメッセージを届けた。目をつぶったままうなずいていたみほさんは、まもなく逝った。

 紀行さんが子どもたちを叱ると、「外行こっか」と連れ出してなぐさめてくれた、みほさん。母の代わりに、長女のまどかさんが中心となって弟や妹の世話をみる。暮らしは楽ではなく、幼子たちは月2回の子ども食堂を心待ちにする。

 投げ銭で集まるのは2千円から9千円ほど。全て被災地に届ける。12月には、熊本地震から4年の付き合いがある熊本県西原村に向かう。「ママがいなくても『ボランティア行こうや』と子どもたちが言ってくれた」と紀行さん。「やれるとこまでやってみようよ」。今でもみほさんが家族の背中を押す。 (今井知可子)

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