韓国の若者は株に夢中「自分の幸せ」求め コロナで価値観も変化 

西日本新聞 国際面 池田 郷

 韓国で20~30代の株式投資家が急増している。新型コロナウイルス流行初期の株価下落に目を付けて、株取引を始めた個人投資家が目立つ。感染拡大に伴う経済不振が若年層の雇用状況をさらに悪化させる中、リスクを伴う投資に活路を求める構図が浮かぶ。若年投資家の群像に目を凝らすと、ポストコロナ時代における新たな働き方や人生の価値観なども垣間見える。

 「ファイザー社のワクチン、すごくいいというニュースが出ましたね。年末にも承認されるとか」

 「国内の関連株は何ですか?」

 「ウリバイオかな」

 20~30代の株式投資家が匿名で情報交換をする会員制交流サイト(SNS)のトークルームは10日、未明にもかかわらず米製薬大手ファイザー関連の話題で持ちきりだった。

 同社は9日、開発中の新型コロナウイルスワクチンの有効性が90%以上に達したとする臨床試験の暫定結果を発表。若手投資家たちが注目したウリバイオ社の株価は10日、前日比1380ウォン(約130円)高の5980ウォンの終値を付けた。

 韓国大手証券6社で今年1~8月に新たに開設された株式口座は420万件。うち57%を20~30代の口座が占める。大学では株式投資を学ぶサークルが人気を集め、ソウルのある大学では今春、定員の3~5倍の加入希望者が殺到したという。

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 「われわれの世代がマイホームを買うのには、株式投資で資産を増やすほかに方法が思い浮かばない」。ソウルの銀行に勤める男性(29)は今春、1億4千万ウォンを借金して株を始めた。

 男性の年収は約7千万ウォン。同年代の中では恵まれた方だが、親の経済的支援がなければマイホームに手が届かない。ソウルでは家族向けの新築マンションの平均価格が10億ウォンに迫る。

 今年に入って地方都市でもマンション価格が高騰。低金利の長期化もあり、中高年富裕層を中心に不動産投資熱は冷める気配がない。ただ不動産投資は自己資金が数億ウォンは必要なため、一般の若年層は手を出しにくい。

 今年3月、感染拡大の影響で韓国総合株価指数(KOSPI)が大きく下落すると、若年層の間で少額から始められる株式投資への関心が高まった。政府がマンション価格の安定化を目指して相次いで打ち出した売買規制策などを敬遠して、若手の一部富裕層が不動産投資から株式投資にシフトする動きもみられた。

 5月に25~39歳の男女700人を対象に実施した民間調査によると、投資の目的を「住宅購入に向けた財源調達」とする回答が61%に達した。スマートフォンのアプリで売買できる手軽さもブームを後押しする。

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 一日中株の売買を繰り返す専業デイトレーダー、アルバイト代を株につぎ込む苦学生、週3日を株取引に充てて3日だけ病院で働く勤務医…。

 韓国大手の京郷新聞は10月、20~30代の株式投資家に焦点を当てた大型特集を組んだ。記事で紹介した投資家たちは、経済状況こそそれぞれ異なるものの、共通点としてコロナ禍で増幅した将来不安を訴えた。株で稼いで経済的な自由を手に入れ、30~40歳までに会社を辞めたいという夢を語る投資家が目立った。

 男性会社員のチョ・ハヌルさん(27)もそんな一人だ。37歳までに5億~6億ウォンを稼ぎ、会社を辞める目標を立てている。退職後は元本を維持しながら、月150万ウォンほどを生活費に充てて暮らしていく人生設計を描く。

 ぜいたくに遊んで暮らしたいわけではない。不動産や物価が高いソウルを離れて生活し、教育費がかさむ子どもや、車、ペットを持つことを諦めれば、十分に実現可能な計画だと考えている。

 韓国では2010年ごろから、経済的事情のために「恋愛、結婚、出産」を諦める「3放(棄)世代」という言葉が流行語になった。さらに就職やマイホーム、将来の夢などを全て諦める「N放世代」の言葉が生まれた。Nは数字を意味する英語「ナンバー」の頭文字。諦める事柄が3放から5放、7放と増え、もはや数えられない状況をN放と言い表している。

 一方で、若年層には「小確幸」という価値観が定着しつつある。作家の村上春樹さんのエッセーから広まった「小さいけれど確かな幸せ」の略語は、受験や就職の激しい競争に疲れた韓国の若者たちが行き着いた一つの境地だという。

 チョさんは、会社を辞めてこだわりのコーヒーを提供するカフェを営んだり、旅行ガイドをしたりする夢がある。「会社の歯車としてやりがいのない仕事に縛られるのは嫌だ。自分の幸せのために働く人生を送りたい」。ささやかながらも確かな目標を見据える。 (ソウル池田郷)

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