スー・チー政権 民主化の期待を裏切るな

西日本新聞 オピニオン面

 ミャンマーで総選挙が実施され、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる与党、国民民主連盟(NLD)が改選議席の8割超を獲得して圧勝した。

 ミャンマー国会には軍事政権時代に制定された憲法による非改選の軍人枠がある。それを含めてもNLDが上下両院の単独過半数を獲得することになり、2015年の前回選挙で長年の軍政を廃し発足したスー・チー政権の継続が確定した。

 今回の総選挙は同国内でも新型コロナウイルスの感染が拡大する中で行われ、政権にとっては不安材料だった。結果的に民主化運動の元リーダーで軍政に終止符を打ったスー・チー氏のカリスマ的人気に陰りは見えなかった。国軍寄りの野党は支持を集められなかった。

 ただ、国民と国際社会の大きな期待を背負い発足したスー・チー政権の1期目は、実績に乏しかったと言わざるを得ない。2期目の課題は山積している。

 まずは国軍と少数民族武装勢力との和平である。ビルマ族中心の軍政に抵抗する少数民族にはスー・チー政権発足による和平への期待があった。にもかかわらず交渉は進んでいない。

 また、バングラデシュとの国境近くに住むイスラム教徒の少数民族ロヒンギャを巡る問題では、国際社会から政権への厳しい批判の声が上がっている。

 ロヒンギャは国軍による迫害を恐れ難民として国外に大量流出し、悲惨な環境に置かれている。仏教徒中心の国民はロヒンギャへの同情が薄く、今回の総選挙の争点にもならなかった。スー・チー政権は国民の7割を占めるビルマ族の世論を気にしてか、問題解決に消極的だ。

 さらに、肝心の民主化自体も歩みが止まっている。現在の憲法は事実上、軍が「改正の拒否権」を持つ仕組みだ。この憲法を改正しない限り、完全な民主化にはならないが、改憲の試みは失敗している。

 最近は、スー・チー政権が自らに批判的な運動や報道を抑え込む事態さえ起きている。民主化を掲げる政権が強権化するようでは本末転倒も甚だしい。

 ミャンマー経済は民主化による飛躍が期待されたものの、電力不足などインフラ整備の遅れがたたって潜在力を発揮できていない。それにコロナ禍が重なった。経済回復策は急務だ。

 スー・チー氏は実質的な国の指導者として、国内外からの批判を真摯(しんし)に受け止め、課題の解決に全力を挙げるべきだ。批判に対しかたくなにならず、国軍との確執を乗り越えて民主化を完成させる必要がある。ビルマ族のリーダーではなく、ミャンマー全体の代表との意識を持って国政に力を振るってほしい。

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