10年 時が止まった町 中原岳

西日本新聞 中原 岳

 毎時0・196マイクロシーベルト。駅舎の空間放射線量率計が、数字を赤くともしていた。福島第1原発事故の被災地、福島県富岡町の夜ノ森駅。駅の東側はいまだに帰還困難区域だ。空間線量率は福岡県でその日測定された線量より3倍以上高かった。

 東京都と宮城県を結ぶJR常磐線が今年3月、東日本大震災の被害から復旧し、9年ぶりに全線再開を果たした。列車の旅が好きな「乗り鉄」にとって未制覇の常磐線。被災地の「今」も気になり、夏の終わりに訪ねた。

 夜ノ森駅は仙台駅から電車を乗り継いで2時間超。一人降り立ち、電車が走り去るとしーんと静けさに包まれた。

 駅の東側を歩く。構内や駅への道路は除染済みという。道の両側には柵が並び、除染されていない民家や商店には入れない。屋根瓦は崩れ、割れた窓ガラスからカーテンが風になびいている。車庫には、ほこりをかぶったままの車。原発事故の日から時が止まっているように感じた。

 1駅戻り、福島県大熊町の大野駅で降りた。原発から約4キロの最寄り駅だ。線量率はさらに高い毎時0・343マイクロシーベルト。多くはいまだに帰還困難区域で、商店や飲食店も並ぶ通りは封鎖されている。不審者に備えてか、防犯パトロール車が巡回していた。

 駅の待合室で町の広報紙を手に取った。6月末現在の人口は1万295人。町内居住者は推計852人だが、住民票があるのは帰還者122人を含む244人。残りの大部分は、町によると原発の廃炉作業員。他の町民は今も全国に避難している。九州は最多の宮崎が27人。福岡21人、大分6人、佐賀3人、長崎と熊本各2人、鹿児島1人と続く。長崎大の保健師らによる健康相談の記事も見つけた。九州の支援も続いていると分かり、エールを送りたくなった。

 常磐線に再び乗る。原発から遠ざかるにつれ新築が増え、車や人影が目立ってきた。ほっとする風景は、逆に帰還困難区域が置き去りになっていることを印象づけた。

 居住再開に向けた準備は思うに任せないのか。いったん人間の手に負えなくなった原子力は、復興へ歩む時までもゆがめていた。

 あの3・11から、3カ月半で10年になる。 (編集センター)

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