「負の決定」不透明な経緯 「世界で最も厳格」タイの不敬罪

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 ワチラロンコン国王の指導を受け、摘発を2年以上停止してきたタイの不敬罪。政権当局が「復活」させる背景には、終わりが見えない反体制デモを抑え込む狙いがあるが、誰が、どのように強権手法の再開を決めたのかは見えてこない。この不透明な権力構造こそ、抗議活動に揺れるタイ問題の核心と言える。

 摘発再開は国王の指示か。26日、記者に問われた政府報道官は「その質問には、私も政府としても答えられない」と困った表情で繰り返した。

 「世界で最も厳格」と言われるタイの不敬罪。これまで国王の愛犬をからかう投稿をしたり、王室の私生活に関わる記事を拡散したりしただけで摘発され、国内外のメディアや大使館関係者も時に捜査対象になった。毎年20~30人が逮捕・起訴され続けたが2018年以降、急に止まった。

 19年6月、取材に応じた王室警備当局の幹部は、不敬罪による摘発を控えるよう国王の指導があったことを認め「法律を誤解している人々がいて、もろ刃の剣になりうるため」と説明。プラユット首相も後に「国王が慈悲で(不敬罪を)使わないよう要請された」と記者団に話した。

 このとき「誰の決断か」が表に出たのは、19年に民政復帰と国王の戴冠式があったことと無縁ではない。不敬罪に対する国際社会の批判に考慮し「国民を思いやる国王」を内外にアピールする狙いがあったとみられる。国会や政府の議論を経ないままの「停止」は、改めて国王の絶大な力を浮き彫りにした。

 今回の摘発再開は、国民への締め付けを強める“負の決定”。国王の指示や許可はあったのか、それとも政権が独自に決めたのかの説明はない。タマサート大法学部の講師は「摘発停止を求めた国王の『指導』は絶対。政権当局が勝手に方針転換することは国王に従わないことを意味し、ありえない」とみる。「国王の権威を利用したい政権の判断」(野党議員)との声もあるが少数派だ。

 プラユット首相は19日の声明で「今の状況が続けば敬愛される機関(王室)がさらに傷つく」と強調。王室批判を強める反体制派摘発に本腰を入れる構えだ。

 だが、反体制派は不敬罪の中身はもちろん、不透明な権力構造自体を批判し「法の下に王室を置くべきだ」と訴え続けている。

 もし摘発再開が当局の独断であれば、政府は堂々と説明すればいい。国王の「指導」や「要請」より、立憲国家の根幹である法の支配を重視した証しなのだから。逆に、国王が何らかの指示や許可を出していたとすれば、超法規的な存在が国政を左右するタイの変わらぬ実態を示すことになる。

(バンコク川合秀紀)

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