自虐的な歌で気持ち安定 26歳が聴いた仕事唄(3)

西日本新聞 筑豊版

 今月上旬、感染性胃腸炎になり、高熱と下痢で長く会社を休んだ。ただでさえ記者が少なく人繰りが大変なのに、職場にとんだ迷惑を掛けてしまった。

 1人暮らしの私を案じてか、上司が毎日メールをくれた。

 「具合はどうですか、何か食べていますか」「買い出しでも通院でもお手伝いします」

 学生時代から1人暮らしは6年目。ここまでひどく体調を崩したことがなく、ちょっと心細かったため、メールはありがたかった。

 昭和初期まで炭鉱に残っていた「納屋制度」では考えられないことだろうと、ふと思った。これは「納屋頭」という仕事の請負人が労働者を募集し、仕事や生活を世話する制度。中には悪質な納屋頭がいたという。恨みを歌った歌がある。

 ♪いやな人繰りじゃけんの勘場 情知らずの納屋頭 ゴットン

 「情け知らず」がもの悲しく響く。「ゴットン」はツルハシが炭壁に打ち込まれる音や、炭車がレールの継ぎ目を通過する音などとされることから「ゴットン節」と呼ばれる。

 飯塚市歴史資料館元館長の故深町純亮さんの著書「炭坑節物語」によると、この制度による労務係の「人繰り」は「少々の病人でもその尻を叩(たた)いて坑内に繰り込んだ」らしい。また、炭鉱労働者の賃金を分配する役目の「勘場」は、お金をピンハネすることもあった。

 私だったら、炭鉱用語で言えばケツワル(逃亡する)かも。でも逃げたら納屋頭から激しく殴られる上、「ここなら仕事がある」と全国から労働者が集まった時代、そう簡単には辞められなかったのだろう。

 過酷な労働環境に置かれた労働者は自虐を歌った。

 ♪いかな下罪人も叩かるりゃ痛い 食わにゃひもじい着にゃ寒い ゴットン

 下罪人は昔の囚人を指し、炭鉱労働者に対して差別的に使われた言葉だ。

 私も友人と話す時、少しむちゃな指示をしてくる上司のことを「ありえん。鬼」と表現することがある。これは「情け知らずの納屋頭」に近い。そして「どうせブラック(企業)だし」「自分はただの会社のコマでしかない」と必要以上に自分をさげすむ。自虐が健全なことかは分からない。ただ、不思議と気持ちが安定し、精神のバランスが保たれる。だからつい自虐に走ってしまう気持ちはよく分かる。

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