チコちゃん叱らないで 井上裕之

西日本新聞 井上 裕之

 現代流の言葉で表せば、やり方はアナログ的だ。文明の利器は使わず、人の足と目と耳に頼る作業は非効率かもしれない。けれども、あっさりやめてしまうのもどうか。

 気象庁が1953年から続けてきた生物季節観測を見直し、来年から対象種目を大幅に削減すると発表した。

 列島各地でのサクラの開花やホタルの初見の日などを気象台の職員らが捉え、国民に知らせる営みは「季節の便り」として親しまれてきた。

 観測は植物34種、動物(鳥や昆虫類など)23種を対象に行われてきた。今年の福岡市で見ると、タンポポ開花1月21日、ツバメ初見3月8日、アブラゼミ初鳴7月2日、ススキ開花9月24日…などサクラやホタル以外の観測データも順次伝えられている。

 来年から動物の観測は全廃、植物の観測はウメ、サクラなど6種に限定される。近年は気象台周辺での標本木の確保や対象動物の発見が困難になっていることが理由という。大規模災害が多発する中、気象台の仕事はレーダー解析などによる予報に大きくシフトし、他の業務まで手が回らない事情もあるようだ。

 ただ、自然とじかに向き合うことは気象業務の原点であるはず。その姿勢が失われていくことで、国民と自然との共生意識も薄れていきはしないか。少し気掛かりだ。

 今の世の中、アナログは時代遅れとされ、デジタル化がさかんに叫ばれる。効率や便利さの点でデジタルの恩恵は確かに大きい。けれども「スマートフォン漬け」の弊害が指摘されるように、行き過ぎと思える面もある。

 デジタル依存症は脳を壊す-。脳生理学者らはこう警鐘を鳴らす。スマホやパソコンの画面を一日中見詰めていると脳は絶えず緊張状態に置かれ、それが慢性疲労やうつ病などを引き起こすという。

 最近読んだ本によると、脳を元気にさせ、心身の健康を保つポイントは意外に単純。太陽の光を浴び、運動をすることだそうだ。これに照らすと、ウオーキングや山歩きを通じて自然に接するのはお勧め。コロナ禍による巣ごもり生活でたまるストレスの緩和にもつながりそうだ。

 世の中の情報に振り回されたり、流行に遅れまいと強迫観念に駆られたりする必要はない。身近な動植物に目を向け、季節の移ろいの中にのんびり身をゆだねる時間を持つ。それが本来の人間らしい暮らしではないか。NHK番組の人気者、チコちゃんに叱られるかもしれないが、そんな意味で素朴に思う。「時にはぼーっと生きるのもよし」 (特別論説委員)

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