韓国法相vs検事総長、泥沼の対立 次期大統領選絡み複雑に

西日本新聞 国際面 池田 郷

 【ソウル池田郷】韓国の検察改革を巡り、秋美愛(チュミエ)法相と尹錫悦(ユンソクヨル)検事総長が激しく対立している。秋氏が尹氏に憲政史上初の職務停止を命じたのに対し、尹氏は法廷闘争で徹底抗戦する構えだ。世論は秋氏の強引な手法に批判的で、文在寅(ムンジェイン)政権を支持してきた中道層も反発。また保守層から2022年3月の次期大統領選に尹氏の出馬を求める声が上がっており、事態をより複雑にしている。

 「総長の不正の疑いは非常に深刻で重大だ」。24日の緊急記者会見。秋氏は険しい表情でこう指摘した。職務停止の理由として、収賄罪などで在宅起訴された曺国(チョグク)前法相の裁判を巡り、担当判事の政治思想や家族関係の個人情報を不正に調査したと主張。メディア関係者との不適切な接触や監察業務の妨害も挙げた。

 これに対し、尹氏は26日、処分の取り消しを求めて行政訴訟を提起。尹氏の代理人は秋氏の対応を「民主主義と法治主義の否定だ」と激しく非難する。

 政府と尹氏の対立は、昨年末に検察が曺氏の捜査を本格化させたことで激化。後任で判事出身の秋氏は今年1月の就任直後、尹氏の側近を一斉左遷し、捜査指揮権を発動して尹氏を特定事件の捜査から排除した。

 検察改革の目玉は、政治家や官僚に対する捜査権を検察から「高位公職者犯罪捜査処」に移し、権力の分散を図ることだ。革新系の文政権が改革に血道を上げるのは、検察が保守政権や財閥と結託して民主化運動を抑圧してきた歴史的背景がある。

 文氏には別の動機もある。師と仰ぐ故盧武鉉(ノムヒョン)元大統領の自殺だ。退任後、盧氏は家族の金銭授受疑惑を巡って検察から厳しく追及されていた。文氏は当時の保守政権下における検察の捜査手法を批判し、自身の著書で「政治的な他殺も同然だった」と訴えていた。

 政府与党は秋氏を支える方針だが、世論の反応は芳しくない。26日発表の世論調査で職務停止を「誤り」と回答したのは約56%で、「良い」の約39%を上回る。検察改革に肯定的とされる中道層でも「誤り」が約67%に達した。

 一方、尹氏は「反権力の象徴」として保守層を中心に支持を集めており、次期大統領にふさわしい人物を尋ねた一部世論調査では、与党代表の李洛淵(イナギョン)前首相と李在明(イジェミョン)京畿道知事を抑えて首位に立った。検事総長の職務停止という「最後のカードを切った」(革新系紙)のは、政権側の危機感と無縁ではない。

 文氏は昨年7月、尹氏を検事総長に起用。保守系の朴槿恵(パククネ)前大統領を巡る贈収賄事件の捜査を率い、権力におもねらない姿勢を買ったとされる。その尹氏とやはり自身が起用した秋氏の対立だけに、大統領に事態収拾を求める声も強いが、文氏は沈黙を続けている。

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