恋してれば気分は上向き 26歳が聴いた仕事唄(4)

西日本新聞 筑豊版

 炭鉱は一番方、二番方、三番方と交代制で、出勤が朝、昼、夜に分かれている。福岡県田川市の石炭記念公園にある三井田川鉱業所伊田坑跡の竪坑櫓(たてこうやぐら)は、見上げたら首が痛くなるくらい高さがある。出勤する時はこの竪坑櫓に付いている「ケージ」というエレベーターの中身だけのような部分に乗って地下に下りる。

 ♪香春岳から見下ろせば 伊田の竪坑が真正面 十二時下がりのサマちゃんが ケージにもたれて思案顔 サノヨイヨイ

 「サマちゃん」は恋人を意味する。思案顔の彼は、おそらく職場恋愛中で、出勤時間が違う彼女を思い浮かべて「どうしているかなあ」と物思いにふけているのだろうか。きっとその頭の中はこんな感じ。

 「いっしょにいたいけれど とにかく時間がたりない 人がいないとこに行こう 休みがとれたら」(ロックバンド、ユニコーンの「すばらしい日々」より)

 こんな昔にもすばらしい日々があったんだなあ。

 同じ部署の男性と社内結婚した友人に、職場恋愛がどんな感じなのか聞いてみた。「職場で見かけるとニヤニヤしていた。退社したら会社の出入り口で待ち合わせして、映画とか食事によく行った」という。

 一方の炭鉱では、あまり自由がなく、同じ時間に働いたり休みを合わせたりできなかった。それを実感する歌がある。

 ♪あなた一番わしゃ二番方 上がり下がりで会うばかり ゴットン

 炭鉱絵師の山本作兵衛さんが歌うこの歌は、終盤にかけて消え入りそうな声になる。他のゴットン節に比べて「ゴットン」の部分に力がなく、悲しそうだ。勤務の交代ですれ違う時にちょっと顔を見るぐらいしかできないなんて、切なすぎるだろう。まるで、気になっている他校の生徒と電車ですれ違うばかりの学生みたい。かなりもどかしい。

 前向きに考えれば、その一瞬が仕事へのパワーを何倍にもしたのかもしれない。社内恋愛中の別の友人は「恋していると気持ちが上向きになる」と言っていたから、きっとそうだろう。

 ところで、なぜ「サマちゃん」と言うの?

 田川市石炭・歴史博物館の学芸員森本弘行さん(61)によると、サマちゃんは「あなたさまから生まれたのでは」。ぐっと距離が縮まる気がするし、名前で呼ぶより気恥ずかしさがなさそうで気に入った。私もいつか使ってみたい。

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