少しすかぶらの方がいい 26歳が聴いた仕事唄(5)

西日本新聞 筑豊版

 私が愛してやまないロックバンド、スピッツの歌と仕事唄は共鳴する瞬間がある。

 ♪サマちゃんサマちゃんと恋い焦がれても 末は添うやら添わぬやら ゴットン

 「君が世界だと気づいた日から 胸の大地は回り始めた 切ない空に浮かべていたのさ かげろうみたいな二人の姿を」(スピッツの「日なたの窓に憧れて」より)

 いずれも「好きな人のことで頭がいっぱい。いつか一緒になれるかな」というような歌だと思う。ただ「サマちゃん-」は死が隣り合わせだった時代の歌。単純な恋の歌ではない気もする。

 田川市石炭・歴史博物館が発行した炭鉱労働者の証言集には生々しい体験談がある。「坑内で爆発したり炭壁の下敷きになったりして挟まれて死んだ人を何回も見た。(中略)俺はもう坑内は嫌やなと思った」

 炭鉱の事故では一気に数百人の人々が亡くなった。「坑内から無事に上がってくるだろうか」。歌にはこんな心配が込められているようにも思えるのだ。

 夫婦の場合、夫を亡くした女性には親が再婚相手を連れてくることがあった。

 ♪むすめ喜べ今度の婿は 仕事嫌いで遊び好き ゴットン

 「遊び好きなんて嫌です」。筑豊地区の女性炭鉱労働者から聞き取りを重ねた鞍手町の井手川泰子さん(87)に最初の感想をぶつけたら、こう教えてくれた。

 「少しすかぶらの方がいいよ。すかぶらじゃないとできんことがある」

 すかぶらは怠け者という意味。井手川さんによると、特に危ない現場の時はわざと欠勤する男性がいた。予想どおり実際に事故が起き、男性は命拾いしたという。「嫌と言えない人は真面目に行ってしまうんよ」

 なるほど…。この歌は「もう夫を事故で亡くすことはないよ」という親心だったのか。

 同世代の友人は、こう解釈した。「前夫は仕事ばかりで家庭を顧みない人だったけど、今度の夫は仕事嫌いだから早めに帰宅するはず」。今は、働き過ぎて家庭生活が崩壊したり「もう無理です」と言えず過労死につながったりすることが問題になっている。そう考えたら、確かにちょっとくらいすかぶらの方がいい。

 「もちろん本当の怠け者もおったよ」。井手川さんは笑いながら付け加えた。本物のすかぶらには引っかからないようにしよう。

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