「迷える蟻んこ」よ、翌檜のように

西日本新聞 オピニオン面

 1952年の秋から冬は大変な就職戦線だった。新制大学初と旧制大学最後の卒業生の就職が翌春に重なったためだ。この就職戦線を体験したのが、ジャーナリストの故黒田清さん。当時を回顧した著書で、求人に群がる自分たちを「迷える蟻(あり)んこ」と書いた

▼黒田さんは父の縁故を頼り銀行に入ろうとした。面接で投票した政党を問われ、受かりたい一心から思わず「自由党です」とうそをついた。それを恥じ、夢の新聞記者を目指して就職活動を再び踏ん張ったという

▼来春の卒業予定者にも就職難の気配である。大学生の就職内定率は10月時点で前年同期比7・0ポイント減。短大生は13・5ポイント減、専修学校生は14・9ポイント減で、過去最大の落ち込みという

▼これまでの「売り手市場」を一変させた犯人は新型コロナウイルス。旅行業や航空業、飲食業が大打撃を受けた。バブル崩壊後を襲った「就職氷河期」の再来を懸念する声もある

▼希望する業種の求職が激減して戸惑う人が多かろう。オンライン面接では十分に長所をアピールできない人もいよう。読者の皆さんの身近にも就職が決まらず、もがく若者がいるのでは

▼「負けるな」と言うことしかできぬ身がもどかしいが、せめて「迷える蟻んこ」に「翌檜(あすなろ)」という木の名前の由来を伝えたい。明日は檜(ひのき)になろう、と念じて伸び続けるからその名がある。翌檜のように自分の可能性を信じ、踏ん張っていこう。

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