一発屋に学ぶ「その後の人生」

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 私の人生下り坂である。この年になれば体力、気力、記憶力はもちろん、収入とか組織内の立場とか、全ての面でピークを過ぎ、日々衰えを実感しながら生きている。まあ、たいていの中高年も同じ悲哀を感じておられるのではないか。

 スポーツや芸能、ビジネスの分野で頂点を経験した人々の「ピークの後の人生」はとりわけ大変だろう。全盛期と現在とのギャップに苦しみ、時に道を誤ることも少なくなさそうだ。

 2年前に刊行された「一発屋芸人列伝」(新潮社)は、一発屋と呼ばれるお笑い芸人たちの「ピーク後」を追ったノンフィクションだ。著者の山田ルイ53世さん(45)自身も一発屋芸人。お笑いコンビ「髭(ひげ)男爵」で「ルネッサーンス!」と乾杯していた人である。山田さんに「その後の人生」の歩き方を聞いた。

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 例えばこの本に登場するテツandトモの2人。現在の活動の中心は地方のイベントのゲスト(いわゆる営業)だが、取材に基づく地ネタを盛り込んだ「なんでだろう~」が好評でオファーが引きも切らないという。世間からは「消えた」と思われつつも、新たな活路を見いだそうとする一発屋たちの姿が興味深い。

 -取材対象をお笑い芸人に絞ってますが、本の内容には普遍性がありますね。

 「芸能人などではない普通の人にも、小さいころスポーツができた、勉強ができた、若いころモテた、とか大なり小なりの『一発』があったはずです」

 「芸人にも普通の人にも共通して言えるのは、どこかで『負け』をのみ込み、自分を諦めてやる作業が必要だということ。『自分はここまでしかできんな』と選択肢を一つつぶす。そして新しいジャンルを見つけ、そこで活躍している人もたくさんいます」

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 -そうはいっても負けを認めるって難しいのでは。

 「芸人の場合、負けや失敗をネタにしてセールストークにしていく柔軟性がある。確かにスポーツやビジネスの世界ではなかなかそういう気持ちにならないかもしれない。芸人のしぶとさや柔軟性を見習うべきではないでしょうか」

 -山田さんの場合、負けをのみ込んだ瞬間は?

 「すでに仕事の量が減っているのに家賃二十数万円の部屋に無理して入ってた。するとみるみる貯金が減っていくんですね。『これでは一過性の見栄(みえ)で子どもの将来まで巻き込んでしまう』と思った。その瞬間です。それまでに2、3年はかかってますけど」

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 苦いかたまりをのみ込んだ山田さんは、お笑いを続けながら、書く仕事で才能を発揮。「一発屋芸人列伝」は「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞に選ばれた。文庫版もこのほど刊行されたばかりだ。

 「ピーク後」をどう生きるか。「過去の自分」にとらわれがちな中高年にとって重要な問題だ。いや、業績好調期の経営パターンを転換できない企業とか、少子高齢化に向かう社会とか、そんな大きな話にも通じそうな気がする。

 学ぶべきは一発屋たちの潔さ、そしてしたたかさ。テレビで見ないからといって、彼らを「消えた」などと言うのは失礼なのである(私も言ってました、ごめんなさい)。

 (特別論説委員・永田健)

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