「心の記録」が出来上がっていく【壱行の歌 認知症を描く】

西日本新聞 医療面

若年性認知症当事者・福田人志さん寄稿(7)

 「年が明けたよ。今年は良いことがあるように、初詣に行かないとね」。おせち料理はないけれど、野菜たっぷりの雑煮と、縁起を担いだレンコンの煮物を用意し、2015年を迎えました。

 神社には行列ができていました。何をお願いしよう、おさい銭は少ないけど。「認知症を治してください」は神様も困るだろうし。順番が来て慌てた私は、とっさに「今年は普通でありますように」とお願いしたのでした。

 年の瀬に私が捨てたメモ帳を、偶然拾って読んだ任意後見人の中倉美智子さん。私の思いを中倉さんが毛筆ではがきに記す作業は新年も続いていました。うれしいやら恥ずかしいやら。でも中倉さんの言うとおり、私の心の記録のようにも思えてきました。

 出来上がったはがきに色を付けたら、暗い歌も明るくなるんじゃないか。私は赤やピンクの絵の具で塗り始めました。この頃はまだ何かをデッサンするという考えはありません。2月に入って寒さが一段と増し、家計もぎりぎりで懐も寒い状態でしたが、心は不思議と穏やかです。一枚一枚、色鮮やかな「歌」が完成するたびに、希望が芽吹いていくようでした。

 「これ最高の出来だね」「こっちも意味は分からんけど気持ちが入ってる」「ねえ、2人だけで見るのはもったいない。佐世保市内で展示でもしてみようか」

 中倉さんの提案を、即座に「それは無理」と断りました。認知症の人が街中で発表するなんてあり得ない、誰も見向きもしない、と。でも「一人でも見てもらえればいいじゃない。小さくても地域の人とつながり、交流できれば、君の自信につながる」。

 一歩も引かない中倉さんの表情が、節分の豆に付いていた鬼のお面と重なります。とうとう私は「はい」と折れたのでした。

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 ふくだ・ひとし 1962年、山口県岩国市生まれ。2014年、51歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断される。15年に「認知症サポート壱行の会」設立。長崎県認知症疾患医療センターに相談員として勤務する傍ら、当事者による全国組織「日本認知症本人ワーキンググループ」理事として政策提言もしている。

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