日本の役割は米中関係の補完 バイデン政権 丸紅経済研究所長・今村卓氏に聞く

西日本新聞 国際面 古川 幸太郎

【展望 バイデン政権】(3)

 米大統領選で勝利を確実にしたバイデン前副大統領。新政権のアジア外交の展望や、それに伴う日本への影響について日米の識者に聞いた。

 -米国の景気は今後、どうなると見ているか。

 「トランプ政権はオバマ前政権から景気回復の軌道に乗った経済を引き継ぎ、減税の余地もあった。一方、バイデン氏は新型コロナウイルス感染症の封じ込めが最優先課題であり、そこからのスタートになる」

 「バイデン氏は環境・インフラ分野に巨額の財政出動を検討しているが、連邦議会が上院と下院で多数派が異なる『ねじれ』状態になれば、政策の実現はなかなか難しいだろう。事実上の増税を含む税制改革も見通しは立たず、打つ手がないのが実情だ。経済運営はおぼつかない状況が続くと見ている」

 -中国に対するスタンスは変化するか。

 「トランプ氏は『米国第一主義』を掲げ、単独で中国にぶつかる強硬姿勢が目立った。安全保障と通商政策をごちゃ混ぜにした『ディール(取引)』に走るという特徴もあった。これに対し、多国間主義への転換を掲げるバイデン氏は同盟国と手を組み、中国に政策転換を迫る圧力をかけていく姿勢だろう」

 「ただ、警戒しなければならないのは中国側の勘違いだ。米国が弱腰に転換する、米国は衰退していくと思い込み、尖閣諸島の問題など既存の関係を中国有利となるように、一気に動かそうとするリスクはある」

 -日本はどう対応すればいいか。

 「日本はこれまで、米中対立の『漁夫の利』を得ていた。中国はトランプ対策に集中するため、日本とは接近していた方が得策と考えていた。今後はその関係性が成り立ちにくくなる」

 「バイデン氏は自由や民主主義、人権の価値観に基づき、同盟国と一緒にウイグル族を巡る問題や香港情勢で中国に対峙(たいじ)していくだろう。日本が同調すれば中国の反発は必至で、『内政干渉するな』と対抗してくるかもしれない。日本は中国に対し、自制を促すことが求められる」

 -米国の環太平洋連携協定(TPP)への復帰はあるか。

 「オバマ前政権時代にTPPを推進したとはいえ、バイデン氏は自由貿易に反対する労働者階級の支持を得ている。しかも米国全体が自由貿易に恩恵を見いだしにくくなっており、国内の雇用を守ることを優先する傾向が強まっている」

 「そのような環境で日本としては、中国の習近平国家主席によるTPP参加の積極検討の表明を、バイデン氏との交渉材料にするのも一案だ。TPPに復帰しなければ、アジアでの存在感で中国に圧倒的な差をつけられる、と米国に警鐘を鳴らしてもよい」

 -「第2弾」の貿易交渉の行方は。

 「トランプ氏が1980年代の発想で貿易赤字を持ち出しただけで、この異質な4年間が終われば摩擦は収まっていくだろう。自動車関税が継続協議だが、日本から米国への投資を通じた補完関係は成立している。米国の要求も、実態は米国内の日本企業のシェアを抑えたい働き掛けである場合が多く、調停は可能だ」

 -環境重視の姿勢が日本に与える影響は。

 「米国は欧州と連携し、中国も協力する形で、脱化石燃料、温暖化対策を推進していくと考える。日本企業は環境投資に慎重。守りの姿勢のままでは、世界の新たな潮流に乗り遅れることになりかねない」

(聞き手は古川幸太郎)

◆今村卓氏(いまむら・たかし) 丸紅経済研究所長。2008年から約9年半にわたりワシントン事務所に駐在。米国の政治、経済、金融の分析を担当。54歳。

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