思いつぎ足し旅する鍋 北九州・若松~芦屋、3店目の調理場へ

西日本新聞 社会面 古瀬 哲裕

 鍋とともに、受け継がれる店への思い-。約半世紀の歴史を持つ北九州市若松区二島の弁当店「味のくぼた」が10月中旬に閉店し、20年余り使われてきた鍋が、福岡県芦屋町でいりこのつくだ煮を作る「きみしゃん本舗」に譲られた。この鍋は、かつて若松区で親しまれた天ぷら店から引き継いだもの。二つの店の味が染み込んだ鍋が、新たな歴史を刻み始めた。

 「味のくぼた」は1972年開業。久保田京子さん(75)の手作りの味が人気だった。2年前に夫を失った後も50周年を目指して腕を振るってきたが、体調不安などもあり店を閉じた。

 本紙北九州版(10月25日付)は、営業最終日の様子を伝えるとともに、調理場に立つ久保田さんの写真を掲載した。こんろには直径約40センチ、深さ約20センチのアルミ製の鍋が並んでいた。

 写真を見たきみしゃん本舗の渡辺紀美子さん(80)は「おんなじだ、と思いびっくりした」と話す。底が少しすぼまった鍋が、愛用してきた鍋と似ていて、ぴんとくるものがあったという。

 渡辺さんは芦屋町で約30年にわたり民宿を営んできたが、2012年、火災で自宅兼店舗を失った。翌年、焼け跡に残った鍋を使い、宿の名物だったつくだ煮作りを再開。今では県内の直売所を中心に約80カ所で販売されるまでになった。しかし、再起を助けてくれた鍋は長年使ったせいか、昨夏ごろから小さな穴ができて液漏れし始めた。

 買い替えるのは簡単だが、思いが詰まった鍋。悩んでいたところで写真を目にした。同じように地元に根を下ろしてきた店の閉店。感じるものがあった。鍋を使わせてほしいと申し入れた。渡辺さんの長男公義さん(54)は「半世紀を前にした店じまいには残した思いもあるだろう。それも引き継いで使い続けたい」と語る。

 「こんなこともあるのですね」。申し出を受けた久保田さんも驚いた。約20年前、若松区中心部の本町地区にあった天ぷら店が店じまいし、懇意にしていたおかみから鍋を譲られた。今度は自身が店を閉め、その鍋を譲る立場になった。

 10月末、久保田さんを訪ね、鍋を引き取った渡辺さんは「しゃもじを入れてかき混ぜるのにちょうどいい。手になじむんです」と目を細めた。

 久保田さんが引き取っていた鍋は四つ。今回、そのうち三つを渡辺さんに渡し、一つは手元に残した。久保田さんは「ドラマのような話じゃないですか。鍋もきっと喜んでくれるでしょう」と笑った。 (古瀬哲裕)

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