「またおいで」実家気分…人気の農泊体験やってみた

西日本新聞 もっと九州面 平峰 麻由

 屏風(びょうぶ)のような耳納(みのう)連山の山並みと、雄大な筑後川の流れを横目に、福岡県久留米市の中心部から約40分、車を東へ走らせると、田園地帯の同市田主丸町に着く。ここで農家民泊「久留米に泊まらん農(のう)」が催されている。大分市出身で、日頃は農業と縁遠い記者が農家に1泊し、さまざまな体験や地元の人との交流を楽しんだ。

 筑後川の支流、巨瀬川のそばに、緑豊かな広い庭の一戸建てがあった。今回お世話になる田主丸町殖木(ふえき)の植木・苗木農家の栗木直樹さん(67)、トシ子さん(65)夫婦のご自宅だ。「いらっしゃい」とにこやかに出迎えてくれる。

 「泊まらん農」は農作業体験と宿泊がセットになっている。家族連れや就農希望者に人気がある。

 まずは栗木さんの所で農作業を体験する。張り切って動きやすい服装で臨むとトシ子さんが一言。「その格好でいくん? 私は全身久留米絣(かすり)よ。これが一番」。私の久留米絣の作業着も用意してくれる。動きやすく、藍の成分が虫を寄せ付けない。辺りの女性農業者の「ユニホーム」とのこと。言われるままに着替えて畑へ向かう。

 殖木地区は苗木生産が盛ん。地元の諏訪神社には「植木苗木発祥の碑」も立つ。全国有数の植木の町だ。周りにはマツや収穫期を迎えた柿、ミカンなどの木が目につく。

 サクランボの苗(高さ1・2メートル)の掘り起こしを体験する。半径10センチの円を描くように根元へスコップを打ち込む。ブチブチと根を断ち切る感触が伝わる。優しくやろうという気持ちが働いて中途半端な力ですると、切断できずに根っこがささくれる。「ほれ、もじゃけとる!」と注意された。「もじゃける」(ささくれる)と、新たな根が生えにくいという。一気に切るのが優しさなのだ。

 根の回りに土を程よく残して苗木を取り上げる。次は「鉢巻き」。トシ子さんが手本を見せてくれる。ジュートという植物で織った三角巾を広げ、赤ちゃんのおしめのように根元を包む。「苗木も赤ちゃんだからねえ」。ジュート糸をくるくる巻き、絶対ほどけないという「男結び」であっという間に完成した。掘り起こしと鉢巻きで、生き生きした状態で苗を出荷できるようになるという。

 私も挑戦する。苗を寝かせただけで土がぼろぼろと崩れ、根がむき出しに。男結びは何度やってもできない。おしめはゆるゆるだ。掘り起こしから鉢巻きまで5分もかかる。「1日600鉢やることもあるとよ」とトシ子さん。職人のすごさを痛感した。

 日が傾く。近くの柿農家で柿狩りをし、温泉に入って栗木さん宅へ。農泊を受け入れる近所の農家の方も一緒に食卓を囲んだ。いい香りにおなかが鳴る。手のひらほどもあるピーマンの肉詰め、カブの酢漬け、がめ煮、鶏の薫製…。ほとんどが自宅の庭で育てた野菜だ。家庭的な優しい味が1人暮らしで粗食を続けている胃袋に染み渡った。

 「久留米絣と地下足袋が嫁入り道具やったとよ」。トシ子さんが思い出話をしてくれる。私が借りた久留米絣にもトシ子さんの思いが詰まっているのだと感じた。直樹さんは「農家は減ったし、楽ではないけれど、この町は苗木や植木が盛んだと知ってもらうだけでうれしいね」と缶ビールを手に笑う。「こうやって泊まりに来た人と話すのも楽しみだよ」

 夜が更け、広い座敷に布団が敷かれる。親戚の家に泊まるような懐かしさに包まれて眠った。

 翌朝。午前6時半には栗木さん夫妻は起きていた。3人で朝ご飯を食べる。外を見ると、前日に収穫した柿が干してある隣で、私が借りた久留米絣も洗濯されて風に揺れていた。

 「またおいで」。2人が見送ってくれる。来たときより、身も心も軽くなっている。なんだか実家が増えたような気分になった。 (平峰麻由)

 ▼久留米に泊まらん農 福岡県内有数の農業都市・久留米をPRしようと2018年11月に始まった。住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく久留米市の事業で、現在、同市田主丸町の農家7軒が受け入れている。中学生以上=1泊2食7000円、1泊朝食のみ5500円▽3歳以上小学生以下=1泊2食5000円、1泊朝食のみ4000円▽3歳未満=無料。野菜収穫、ジャム作り、ガーデニングなど各種体験料金は別途1200円から。久留米市みどりの里づくり推進機構=0942(27)5342。

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