年期が醸す親しみ「自分だけの宝物探し」 天神まち歩きルポ(上)

 福岡市の再開発促進事業「天神ビッグバン」で高層ビルの建設が進む福岡市の天神・大名地区。国際的なビジネス・観光都市へ期待が集まるが、街の魅力は経済だけでは測れない。地域フィールドワーク演習に参加した九州大芸術工学部の学生ら8人と一緒に、現在の街の魅力を探し歩いた。(吉田昭一郎)

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 旧大名小の3階建て校舎をリノベーションし、官民共同で運営する創業支援施設「福岡グロースネクスト(FGN)」=地図(1)=にまず立ち寄る。

 旧校庭では、高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン」などが入る高さ111メートルの高層ビルが建設中だ。ビッグバンの目玉であり、国内外のビジネス客や観光客がかっし、FGNに集うクリエーターのアイデアが投資家の出資を引き出す夢が膨らむ。

 歳月を重ねた外壁に味があった学窓は、FGNとなり、全体が真っ白く上塗りされた。おなじみの古木やれんが塀が撤去され、少し寂しい。だがその分、歩道が広がり車や自転車を止められるので、利便性、機能性は増している。

 リノベーション前=写真上列左から2枚目=と見比べた学生たちは、「すっきりした」「入りやすくなった」。一方で「白すぎて、大名の街並みから浮いている。外壁の廃れ具合がよかったのに」と残念がる声もある。

 施設内は石造りの柱や板敷きの廊下がそのまま生かされ、「すごく好き」「貴重ですね」と好評だ。スタイリッシュな最新ビルにはない、古さが宿す温かみ、心地よさのようなものがある。

 九州大大学院芸術工学研究院の藤原恵洋教授(建築史、都市計画、文化政策学)が語った言葉を思い出した。「人々が集い、暮らした痕跡がある古い建物は、何かやりたくなる。アイデアがわく」

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 「ディープ大名」エリアと呼んでいいだろう。紺屋町商店街へ回遊する。古いビルを再活用した「紺屋2023」=地図(8)=にも、存在感があった。

 入り口は表通りから通路を入った奥にある。赤い綱のオブジェに目がとまる。何だろう。アートの読み解きは楽しい。傍らには、まどろむネコもいる。意外な出合いに心は躍る。路地裏の時間はゆっくりと流れる。

 建物内の通路はどれだけの人たちが踏みしめてきただろうか、くすんでどっしりしている。2階のギャラリーに入る。壁や天井は、古いコンクリートのむきだしだ。色とりどりのマスキングテープの絵画展が開催中で、壁一面に描かれた朱色の獣がはじけ出てきそうだ。「コンクリートは白一色や黒一色のギャラリーとは違って、作品がなじみやすく、万能な感じ」。学生からはそんな感想もあった。

 都会の片隅の異空間には、不思議な包容力を感じた。

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 紺屋町をさらに歩くと、福岡歯科衛生専門学校の前で「シカ」像=地図(3)=に出合った。ユーモアに気持ちは上向く。近くの建物には、かつて横行した落書きを覆う壁画がある。災い転じて、ポップでおしゃれ。市内のアーティスト集団「アトリエブラヴォ」=地図(4)=の動物壁画が目を引く。

 雑多な店が連なる細い路地を曲がると、肘をついた少女の壁画=地図(5)=と目が合った。こちらを見つめている。本物のツタと絡み合うツタの壁画もあり、虚実入り交じる競演が巧みだ。みんな近寄ったり離れたりして眺めている。

 学生の一人は声を弾ませた。「リキュールの瓶がずらりと並ぶ店、変なソースとアイスのクレープの店、気になる古着屋-。店をのぞいて歩き、思いがけずにアートと触れ合えるのがすごくいい」

 城下町だった大名地区は、突き当たりや鍵形の細い路地が当時のままだ。そこにさまざまな新旧の店が軒を連ねる。年期が入った建物が目立つが、街になじんで、ある種の親しみに結び付くことがある。それを大切に思う心が、街の魅力となっているようにも感じる。

 店主の個性がのぞき見える街を歩くと、「自分だけの宝物探しみたいな楽しみ」がある。

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