松葉夫婦は離れられない 26歳が聴いた仕事唄(7)

西日本新聞 筑豊版

 炭鉱では、採炭の担当を先山、採れた石炭の運搬担当を後山と呼び、組み合わせは作業効率に大きく影響した。夫婦では主に夫が先山、妻が後山を務め、そのペアを一先(ひとさき)と言った。

 鞍手町の井手川泰子さん(87)の著書「火を産んだ母たち-女坑夫からの聞き書」には、こうある。

 「夫婦が一先で下がるなら、やっぱ思い合うて仕事するきね。能率も上がる」

 危険を伴う炭鉱の仕事は気持ちが一つでないとできない。夫婦の共同作業は特に信頼が厚かったようだ。

 一方で、酒と博打(ばくち)にのめり込む夫にうんざりしていた女性は多かった。そうして憂さを晴らさなければ炭鉱の仕事など務まらなかったのかもしれない。そんな夫に女性は容赦しない。

 ♪世帯持つときゃ何というた 仕事好かずのバクチ好き 呑(の)んでくだ巻く悋気(りんき)やく ぐずぐずこくなら切れてやろ

 おぉ、こわっ。「飲み過ぎないようにね」などと優しく体を気遣う様子はない。多分、結婚する時は「必ず幸せにするから」とか言われたんだろう。こんなに痛烈なことを歌われて焦らない男性がいるだろうか。言いたいことが言えないタイプの私には歌えない。

 当時の女性の潔さには圧倒される。こんな話まである。

 「亭主もひと頃のぼせてしもうて、出て行ったまま帰らんことが多かったたい(中略)おらなおらんでもいいと。かえっておらん方が呑気(のんき)でよかった」(「火を産んだ-」)

 1カ月も所在不明らしいのに動じていない。むしろ、いないならいないでもいいと言い切るなんて…。

 本当の別れ話に発展したらどうするんだと心配する私に井手川さんは言った。「でもね、女の人はみんな言うとよ。死ぬときは一緒って。私たちは松葉夫婦だから離れられんって」。松葉は二本の葉の元が繋(つな)がっていて離れ離れになることがない。すてきな響きだ。

 ♪あなた百までわしゃ九十九まで ともにシラミがこじるまで ゴットン

 夫婦は「白髪」を「シラミ」に言い換え、笑い合い支え合いながら仕事した。一生のうちに何度別れようと思っても、なんだかんだ一緒にいるのが夫婦なのだろうか。そういえば私の母も、父と大げんかした後「でもお父さんには感謝しとるけんね」と言っていた。炭鉱では、死を隣にして夫婦の結びつきがより一層固かったのかもしれない。

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